第二話 ギャン中は何かを賭けたい
カケルは明かりも付けずに、暗い部屋で一人、大学時代に友人から貰った安物のベッドに、仰向けで横たわっていた。
賭場では土下座を超えた土下寝――五体投地とも少し違う――まで披露したにも関わらず、カケルの出禁処分は変わらなかった。
『それまでの勝ち分を奪われなかっただけ良心的か』なんて考えてから、カケルはブルブルと首をふった。
証拠も無くイカサマと決めつけられて、出禁にされ、賭け事を奪われたんだ。おのれゆるすまじ、と憎悪を燃料に心を燃やした。自分がスキルというイカサマをした事は棚に上がった。
たれ込むか、という思いが一瞬カケルの頭をよぎったが、すぐにマッポにチクっても無駄な事を思い出して舌打ちした。
ここは日本で、日本ではカジノや賭場は禁止されている。
だが、ダンジョンだけでは許されているのだ。カケルが生まれた頃に、世界のダンジョンを保有する国全てが参加して交わされた条約により、世界のダンジョンでは共通の特別な法律が適用されている。それによってダンジョン内での賭場の開催は許されているのだ。
もう!バカバカ!
例によってどデカい事実を他人事のように棚に上げ、内心だけで思うがままにあの賭場を仕切るグループを罵倒するカケル。
罵倒のバリエーションが尽きて、あいつのカーチャンのヘソは砂場みたいにジャリジャリしてるだの、訳のわからない罵倒しか出なくなった頃に、カケルはやっと今後の事を考えようと言う気になった。
まず今日の賭場で稼いだ金額は約八百五十万。その内の七百万円程はお馬さんに突っ込む事とした。
残りは百五十万。これが尽きるまでに収入の柱を立てなければいけない。そこまで考えてから、カケルは本当に苦しそうに独り言を搾り出した。
「……はたらきたく……ない」
生産性のかけらもない事を強く言い切ったカケルは、寝返りをうつと力尽きたようにベッドに顔を埋めた。
外から見ればピクリとも動かないカケルだったが、その頭の中はぐるぐると高速で回転していた。
働きたくない、でも金がない、だから賭場には行けない、でも働きたくない。
回転しているだけだった。どこまで頭を回しても良い案は浮かんでこない。
一瞬公営のギャンブル、カケルの大好きなお馬さんやお船で稼ぐ事も考えたが、すぐに諦めた。理由はわからないが、それらのギャンブルにはカケルの確率操作が効果を発揮しないからだ。
何故かは知らない。
そもそも魔素やダンジョン、スキルについて人類がわかっていることの方が少ないのだ。
結局のところ、どれだけ現状をこねくり回してみても、今のカケルに賭博で今までのように稼ぐ事は出来ない、という現実が、重くのしかかった。
そこまで情報を整理したカケルは、何度目になるのかわからないため息をついて、現状をしっかりと受け入れた。
「もう働かない為に賭けられるモノは、自分の命だけ、だな」
そう枕に塞がれた口でフガフガと呟くと、もう一度寝返りを打って、仰向けに姿勢を入れ替えた。
「働く位なら、命でも賭けるかぁ」
何としても働かないと言う決意を新たにしたカケルは、ベッドの上でムクリと起き上がる。玄関から歪んだ鉄パイプを持ってきて、部屋の中央に座ると、持ち手にしている部分のテーピングを巻き直してダンジョンに潜る準備を始めた。
***
翌日、満足いくまでお馬さんで遊んだカケルは、残金の全て、五十万円を握りしめて、ダンジョンショップを訪れていた。
鼻歌を歌いながら店内を練り歩くカケル。この後の配信で少しでもバズる確率を上げる為に買えるモノを探していた。
棚にはダンジョンから算出される、肉体を異常な速度で再生させる程の薬効のキノコを煮出して、濃縮させたポーションが並んでいる。一つ十万円もする高級品だ。消費税込みで十一万円。じゅういちまんえんである。欠損どころか骨折も治らないのに。
十万円の全てを食費に当てられれば、カケルならばその気になれば一年近い年月……およそ三百日は食いつなげる。その前に
十万円。ダンジョンの中で命を繋ぐだけで、何て高級品なんだ。カケルはそう感じた。
これを四本買い込んで、ダンジョンの中で死にかけの命を繋いだとて、配信でバズれずにおめおめと生きて帰ってきて働くのであれば、それはカケルにとって死んでいるのと何も変わらなかった。
他に買うべきものがあるはず。そう思ったカケルが周囲を見渡すと、離れた棚に魔石エネルギーで動く自動追従型の高性能ドローンカメラと、自らを追従させる為の送信機、そしてダンジョン内で配信を確認するためのスマートグラスのセットを見つけた。
ドローンカメラに魔石を
今までスマホのカメラを手持ちで撮影して、配信していたカケルがおかしいだけで、ダンジョン配信者なら持っていて当然の装備だ。
俺が買うべきものはコレだ。カケルの直感はそう感じた。
値段を確認すれば四十五万四千円。消費税込みで四十九万九千四百円。残金とほぼピッタリである。
カケルはカメラを手に取って、嬉しそうに笑った。
★
あとがき
読んでくれてありがとうございます。自分が面白いと思えるものを書きます。がんばります。
以下、設定の紹介
都幕カケル 二話現在
二十三歳 男
高校卒業と同時に上京。いい大学に入ったが、就職活動などはする素振りすら見せなかった。
働かない為に、朝早く起きてパチンコ屋に並び、インターネットで台の情報を勉強する勤勉な怠け者。
法律上最短である十五歳で「ダンジョン侵入許可証」を取得している為、ダンジョンに潜る『探索者』としての活動は長い。
戦闘力は身体能力強化の恩恵で、ある程度高い。が、よく鍛え上げられた一線級の冒険者と比べれば並でしかない。
ダンジョンに侵入するようになり、十八で成人して以降、探索で得た金をダンジョンの賭場に貢ぎ続ける日々を暮らしてきた。
分の悪い賭けを勝つ事が生き甲斐。
大学卒業前にスキル『確率操作』を発現。以来、賭場では搾取する側へ回った。
もしこの世界にステータスが実装されていたら表示されていたであろうモノ
都幕カケル
パッシブスキル
勝負師の勘
アクティブスキル
身体能力強化 ★★⭐︎
確率操作 ★★★
称号
ギャンブル中毒
勝負師の勘 情報系把握型パッシブ
勝負の最中に、自分に危険が迫った事や、攻め込むべきタイミング、スキルを使うべきタイミングを感じ取ることが出来る。
そのタイミングで使ったスキルは、そのスキルの持つポテンシャルを最大限に発揮する。
身体能力強化 強化系操作型アクティブ
人類の身体の中に概念的に存在する、魔力生成機関にて生成された、人類が扱える魔素である魔力を使い、身体能力を強化するアクティブスキル。どう言うイメージで強化するかは千差万別で、メジャーな所では燃焼型、充満型、循環型などがある。
確率操作 情報系操作型変異アクティブ
通常の魔素よりエネルギーの高い奇跡を起こせる魔素、第二魔素にアクセスして世界の確率に干渉して操作するスキル。
起こす現象の難易度によって抵抗値が決まり、抵抗値によって現象の確率が導き出される。
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