においの形

聞いた話です。


話してくださったのは、とある大学の、とある施設の職員さん。

仮に、Cさんとしておきます。


土曜日や日曜日、あるいは祝日で、

誰も人が来ない日の昼下がり。

Cさんは、施設の休憩室で昼寝をしていたそうです。


事務室から続く、四畳半ほどの畳敷きの部屋。

そこで寝ようと、ごろんと横になったCさんの目に、

何か動くものが映りました。


それは――


一対の、青白い足。


だったそうです。


それも、脛のあたりから下だけ。


その足が、トコトコと、

視界を横切って歩いて行ったのだとか。


驚いたCさんは、跳び起きましたが、

その時にはもう、きれいさっぱり消えていました。


あたりを見渡しても、何もなく、

人が訪れた様子もなかったそうです。


この話には、まだ続きがあります。


その日の、深夜。


トイレのために、ふと目を覚ましたCさんは、

用を足して寝室に戻る途中の廊下で、違和感を覚えます。


その正体には、すぐに気づきました。


におい、です。


異様に、カビ臭いのです。


廊下の、何もない宙の、とある範囲。

においは流れたり、拡散したりすることなく、

なぜか、そこに留まっていました。


そこで、なんとも豪胆な話ですが、

Cさんは、そのカビ臭を順番にクンクン嗅いでいき、

その範囲や形を特定します。


特定された臭いは、

なぜか床から三十センチほど浮いた位置で、

人の形を成していました。


――連れてきてしまった。


そう思ったCさんは、

その人型の臭いを追い返すために、


「こらぁっ!」


と、怒鳴りつけたそうです。


すると、その臭いは、

すぐに消えてなくなりました。


Cさんがそう言ったわけではありませんが、

この話を聞いたとき、僕は思いました。


臭いが浮いていたのではなく、

昼に見た“足”の部分だけが、

欠けていたのではないか、と。


まあ、だからどうだ、という話でもないのですが。

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