夜のブランコ

夜の神社です。


これは、ほとんど僕自身の体験ではありません。

それに、信憑性もほとんどありません。


大阪はJR環状線の、とある駅。

高校生の頃、友人の一人が、この駅の近くで一人暮らしをしていました。


そして、彼の借りている部屋からほど近い場所に、ひとつの神社がありました。

由緒もあり、小さな山のような敷地と、ほどほどに大きな社殿。

敷地内には、神社なのにお墓や児童公園まであります。


僕は、その一人暮らしの友人と、夜に何度か飲み物を買って、

この神社の境内にあるベンチで飲みながら、だべったりしていました。


車道から少し奥まっており、夜には人影もまったくなく、

落ち着いて過ごせる場所だったのです。


さて、彼とは別に、二人の友人がいます。

仮に、A君とB君とします。

この二人が、このエピソードの主役です。


A君。

自称・霊感あり。

ただし、少々ファンタスティックに過ぎるきらいがあります。


B君。

フルコン空手少年。

マッチョで喧嘩もめっぽう強い。

霊感はないと言っていますが、それらしい体験談を、ときどき話してくれる男です。


そして、僕。

この頃には、心霊現象にはだいぶ懐疑的。

とはいえ、「あるかもしれない」という気持ちのほうが、まだ勝っていました。


ある日の夜、僕は初めて、この神社にA君を連れてきました。

夜の神社です。自称霊感少年です。


それはもう、色々と言ってくれました。

もちろん、僕には何も見えません。

けれど彼の目には、この神社は魑魅魍魎で溢れかえっているように映っているそうです。


僕はもう慣れていましたし、

そう思って眺めてみるほうが楽しい、というのもあって、

適当に話を合わせていました。


ところで、この神社は町中にありながら、小さな丘の上に位置しています。

児童公園は丘の下、

僕たちの座るベンチから見下ろす位置にありました。


マンションで言えば、一階半から二階ほどの高低差でしょうか。


A君は、公園のブランコ――当然、無人です――を指さして、

こう言いました。


「あそこに、首から上のない小さな女の子が座っている」


その造形のせいなのでしょう。

ほかの霊の話では何とも思わなかった僕も、

このときばかりは、ぞくりとしました。


また別の日の夜。

今度は、B君と二人でこの神社に来ていました。


先日と同じベンチに座り、何の話をしていたのかはもう覚えていません。

少なくとも、霊の話ではなかったと思います。


ところが、B君が突然、話の腰を折って声を上げました。


「どうしたん?」


そう訊くと、彼は言いました。


「びっくりした。今、一瞬そこのブランコに、女の子が座ってるように見えてん。

見直したら、やっぱり何もなかったけど」


ちなみに、A君とB君も友人同士です。

A君が、先日の話をB君にしていたとしても、不思議ではありません。


ただ、理由は忘れてしまいましたが、

このときの僕は「それはない」と確信していました。

たぶん、その間に顔を合わせる機会がなかった、とか、

そんな理由だったと思います。


それに、もし僕を脅かそうとしての演技なら、

B君はあとで必ず、種明かしをしたはずです。


「その女の子って、どんな感じやった?」


僕は、訊かずにはいられませんでした。


B君は、少し言いづらそうに答えます。


「頭がなかったみたいに見えたけど……

どのみち、勘違いやで」

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