中国人の幽霊

高校生の頃に聞いた話です。

体験者は、友人のお兄さん。


友人のお兄さん――仮に、Dさんとします――は、

請負でデザイン関係の仕事をしており、

毎日、夜遅くまで在宅で作業をしていることが多かったそうです。


ある時、Dさんは

大阪市メトロ谷町線の、とある駅のすぐ近くにある

ワンルームマンションへ引っ越しました。


特に変わったところのない、

ごく普通の単身者向けワンルームマンションだったそうです。


ところが、です。


この部屋は、

夜になると幽霊が出てくる部屋でした。


幽霊は男性で、

Dさんが机に向かって仕事をしていると、

部屋の中にじっと立ち、Dさんを見つめます。


それだけならまだしも、

その幽霊は、切々と、延々と話しかけてくるのです。


――中国語で。


中国語など解さないDさんには、

幽霊が何を言っているのか、もちろん分かりません。


そもそも本当に中国語なのかどうかすら定かではなく、

ただ、イントネーション的に、

「たぶん中国語だろう」と思っただけだったそうです。


ですから、それが北京語なのか、広東語なのか、

上海語なのか、台湾語なのかも分かりませんし、

もしかすると、韓国語やベトナム語だった可能性もあります。


幽霊は、毎晩出ました。


最初は怖かったDさんも、

次第にその存在には慣れていきましたが、

意味の分からない言葉を、すぐそばで話され続けるのは、

想像以上に大きなストレスだったそうです。


「日本語で言えよ!」


思わず、そう怒鳴ったこともあったそうですが、

幽霊はまったく意に介さず、

相変わらずの調子で、延々と何かを訴え続けました。


怖くはなくなったものの、

ストレスは限界まで溜まり、

仕事はまったく捗らなくなってしまいます。


結局Dさんは、

立地も家賃も条件の良かったその部屋を、

泣く泣く引き払ったそうです。

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