第3話 敗北
「あ、動揺した。お前の脈拍が0.5秒速くなった。図星だろ? ほら、右手も左手も空っぽなんだ。正解は『神宮寺のポケットの中』だ!」
神宮寺は激昂した。
「ふざけるな! 僕はルールを遵守している! ポケットになど――ほら、見ろ!」
神宮寺は自分の潔白を証明するため、勢いよく両手を開き、さらにそのまま自分のズボンのポケットを裏返して外に引っ張り出した。
チャリン――。
その瞬間、神宮寺の「右手」から10円玉がポロリと床に落ちた。
「あ」
健太が短く声を出す。
講義室に、静寂が訪れる。
神宮寺は固まった。自分は今、何をした? 健太に「ポケットにあるだろ」と煽られ、ムキになってポケットを晒そうとした拍子に、自分でコインを握っていた手を開いてしまったのだ。
「……あー、やっぱり右手だったんだ。ありがと、神宮寺。自分から正解を見せてくれるなんて、優しいじゃん」
「あ……あ……っ!!」
神宮寺は顔を真っ赤にし、プルプルと震え出した。
健太は最初から「物質の情報」なんて見ていなかった。神宮寺の「完璧主義でプライドが高い」という性格を逆手に取り、ありもしない不正を疑うことで、自ら「手を開かせる」ように誘導したのだ。
IQ160の頭脳が、だらしない男の適当なハッタリに引っかかり、自分から手の内を晒して自滅した。
「田中ぁぁぁ!! お前、最初から僕をおちょくって――!」
「あ、100万もらうね。約束だし。神宮寺の『論理』って、意外と煽りに弱いんだな。勉強になったわー」
健太は再びだらしない猫背に戻り、札束の入った封筒をパタパタと扇ぎながら歩き出す。
「あ、サオリちゃーん! 神宮寺が『自分からコインを見せてくれるゲーム』で100万くれたぞー! 焼肉行こうぜー!」
「自分から見せてくれるゲームじゃない!! 僕の計算が! 僕のプライドがぁぁぁ!!」
神宮寺の絶叫が、夕闇の講義室に虚しく響き渡る。
彼はその場にのたうち回り、地面を叩いて悔しがった。東大首席のプライドは、たった1枚の10円玉とともに、完膚なきまでに粉砕されていた。
天才頭脳バトル ひふみ白 @tack310
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