第2話 挑発
舞台は夕暮れの旧講義室。神宮寺が用意したのは、単純ゆえに底が深い「コイン当て」だった。
1. 神宮寺が10円玉を1枚、左右どちらかの手に隠す。
2. 健太がどちらにあるか当てる。一発勝負。
「田中、君は『二分の一の運』に賭けるつもりだろう? だが、僕の筋肉の収縮、指の隙間から漏れる空気の音、そしてコインの重心……。これら全てをコントロールすれば、君に正解を与えるかどうかは僕が決定できる」
神宮寺は完璧な「ブラフの罠」を構築した。左手の方に重心を置くように見せかけ、視線はわずかに右。さらに指先にわずかな赤みを出すように血流を操作し、右手にコインがあると思わせる「完璧な偽装」を施した。
(さあ、選べ。右だと思えば左、左だと思えば右。どちらを選んでも僕がその裏をかいてやる!)
その時、健太の身体から、だらしないオーラが霧散した。
猫背が伸び、ボサボサの髪の間から、全てを見通すような鋭利な知性が宿った瞳が覗く。
「……ねぇ、神宮寺」
健太の声が、講義室の温度を数度下げた。
「お前さ、さっきから『計算』だの『コントロール』だの言ってるけど……。このコイン、今どこにあるか、全部わかってる?」
「な……何を。完璧に把握している。君にそんな余裕が――」
「お前がコインを握り込んだ瞬間、金属同士が擦れる音の周波数。お前の掌の湿度が銅の表面に与える吸着力。……俺にとっては、皮膚の向こう側なんて関係ないんだよ。**全ての物質は情報を発信し続けている。**お前が隠しているつもりのコインさえ、俺には騒がしいくらいに響いてくるんだ」
健太は、神宮寺の両手をじっと見つめる。その瞳は、物質を透過して構造そのものを解析しているかのようだった。
「神宮寺……お前の『右』は、今、空っぽだよ。お前が力を込めすぎて、コインの縁が掌の肉を僅かに圧迫している。その反動でコインは『左』へと弾かれたはずだ」
神宮寺の心臓が跳ねた。
(読まれた!? いや、これはハッタリだ! 僕の左手にコインはない!)
「左だ。左に決まってる。……いや、待てよ」
健太はふっと、子供がいたずらを思いついたような笑みを浮かべた。
「お前、さっきから『どっちの手か』って言ってるけど、本当に『手の中』にあるのか? 実は、俺に喋りかけてる間に、もう片方の手でポケットに隠したんじゃないか?」
「な……!? 馬鹿な! 僕はそんな姑息な真似は――」
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