それでも生きろと世界がいった

麦田 花太郎

第1話 黄沃国(おうようこく)のはずれの村

年は7つくらいの少年たちが7、8人の集団で一人の少年を取り囲んでいる。


「おい、ノロマ、さっさと運べよ!」


一人の少年が、集団の中で一際ガリガリな少年に向かって怒鳴る。また、他の少年たちも嘲るように笑い、両手にたくさんの袋を抱えた少年を軽くどつく。


押されたガリガリの少年(マル)は、持っていた荷物の重さで転びそうになるが、なんとか耐え、小さな声で「やめてよ」と懇願する。


「おめえが弱いから悪いんだろ。悔しかったらやり返してみな。他所者が」


そう言って、少年たちは一際大きな声で笑い、無理だ無理だと言いながら走っていく。


慌ててガリガリの少年、マルは荷物を抱え直し、後ろを追いかける。


ここでは日常の光景で、たとえ人がいても誰もガリガリの少年、マルのことを助けようとはしなかったし、少年たちを諌めようとする者もいなかった。



荷物を運び終え、その日の報酬としてわずかばかりの野菜を受け取るが、他の少年たちよりも明らかにその量は少なかった。そこに何の疑問も湧かないのは、マルがこの村の人間ではない血を引いているからだった。母親はここの村の出身だが、父親はどこから来たのかもわからない流人であったと、村の者たちから聞かされている。綺麗な顔をしていたマルの母親は、村の中で一番の人気者で、ある日森の中で大怪我を負った流人を見つけ、介護をするうちに親しくなり、二人はマルを授かった。しかし、怪我が癒えた父は「役目は終わった」と言って、妊娠がわかる前に村を出て行ってしまったらしい。堕ろせという周囲の反対を押し切って、母は死を覚悟してマルを産んだと聞いている。もちろん、助けてくれる人などおらず、文字通り生死の境を彷徨った結果、現在はほぼ寝たきりのような生活を送っている。


幸運だったのは、その母親が見た目が良く、弱いながらも豊穣の力を持っていたことから、マルと共に村の隅で生かされていたことだ。数日に一度、村の男たちが食料を持って訪れ、マルに少し離れた村までお使いを頼み、戻る頃には母だけが家にいる。母は帰ってきたマルを見つけると、優しく抱きしめ、他愛のない話をしてくれる。


そんな生活は、母の母、つまりマルの祖母が死んだ後から続いていた。年々、痩せ細っていく母親をどうにかしなければと思い、マルは村での仕事を始めたが、流人の子どもだからという理由で安く買い叩かれていた。今では、争う気力も失い、ただただ現実を受け入れながら過ごしている。


「明日は村のお祭りがあるわよね。」


母の言葉に、「そうだね」とそっけなく返す。


そんなマルの態度に、一瞬、母は悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに笑顔に切り替え、「一緒に行く?」とマルの顔を両手で掴んで自身の方に向かせる。母と行ける喜びに、顔が勝手に笑顔を作りそうになるのを、マルは必死にこらえる。彼は母親の状態があまり良くないことを知っていた。そして、母親のことを悪く言う村人しかいないことも。そんなところに母を連れて行ってはいけないと思い、「仕事仲間と行くことになってる」と嘘をつく。こんな嘘にはもう慣れていて、帰宅後には母に作り話を聞かせるのが日常になっていた。


じっと目を見つめてくる母親の目を、マルは見返す。


「それに、もう子供じゃないんだから、親となんて行けないよ。」


少し寂しそうな声で、「そう?」と母は手を離し、名残惜しそうにマル母はに背を向け「ご飯作るから」と言い、部屋の隣にある小さな台所に向かう。


そんな我が子を寂しそうな目で見つめる母親が、小さく「ごめんね」と呟いたことは、マルには届かなかった。


「遅くなっちゃダメよ? それと……」


「「村はずれの山には近づかない」だろ?」


呆れたように母親を振り返り、


「もう何度も聞いたって。あそこには近づかないし、行ったって何もないだろ。」


毎日毎日聞かされる、行ってはいけない村はずれの山。その山は、数年前に滅びたとされる隣国との境目にある。そこは、母だけでなく、村の大人全員が子供に言って聞かせる禁足地となっている。大きな獣の棲家だとか、祟りがあるとかの噂が流れているが、実際に何があるのかは誰も知らない。


「とりあえず、そういうことだから母さんはおとなしく家にいて。お土産買ってくるから。」


まだ7つの我が子の少し大人ぶった物言いに、母親は微笑ましくも寂しそうな表情を浮かべながら、夜は更けていった。

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