第5話 ラストババ乳チャンス

——もうのぼせそうだ


 グレイさんが去ってからと言うもの人っこ1人訪れる気配がなかった。ババアどころかジジイ一匹いやしない。老婆も老爺もわんさかくると思っていたのに。もう何時間ここにいるのだろう。バス停で買った水ももうなくなろうとしていた。運がなかったのかもな。


——そろそろ帰ろうかな


 そう思った矢先、脱衣所の方に誰かがいる気配がした。これをラストババ乳チャンスとして、ダメだったら帰ろう。


ガラガラガラガラ


——来た……!


「失礼しますね……」


ぽちゃん


 ババアだ。間違いない。声でわかる。たった四、五十年生きただけでは出ない声の深み。視線を横にやって一応確認するが、間違いない。しわしわの可愛らしい優しい顔、白髪、曲がった腰。ババアそのものだ。


——乳はどうなっているんだ


 しかし、ババアは胸元までタオルを巻いているため乳を確認することはできない。しかし、まだ焦る時ではない。きっとチャンスは訪れるはずだ。焦らずゆっくりと……。


「ハジメさん……ですよね?」


——えっ?


 ババアが突然俺の名前を呼ぶ。どうしてこのババアは俺の名前を知っているんだ。顔をまじまじと見つめて見るが、何の見覚えもない。一体誰なんだ。


「すいません、どなたでしょうか?」


「ごめんねぇ。私は未来からきたのよ」


「え、未来から……?」


「結婚したばかりの頃、ハジメさんはよくこの温泉に連れてきてくれたんだよ。その度に『ババアの乳がどうのこうの』って話してたのを思い出してねぇ。ちょうどこの前タイムトラベルが出来るようになったから、ハジメさんの願いを叶えてあげたくてねぇ」


「……」


「今、乳を見せますからねぇ」


「やめろ、待ってくれ!!」


「え……?」


 俺はタオルを解こうと胸元に手を伸ばすババアを制した。


「いや、いい。帰ってくれ」


「どうして……」


「俺は天然のババアの乳が見たかったんだ。タイムトラベルしてきた養殖の乳じゃダメなんだ……」


「ふふ、頑固なところもハジメさんらしいですね」


 俺は立ち上がるとそのまま脱衣所に向かった。


ガラガラガラガラ


「未来で待っててくれよ」


 俺は背中越しに温泉に入っているババアに声をかけた。


 俺はババアの乳を未来にとっておくことにした。俺がジジイになった時、彼女と結婚してたった一つのババアの乳を見ることができるのだ。なぁに、たった数十年だ。そのくらい我慢できる。そこまでババ乳チャンスはお預けだ。ババアの乳が未来で待っている。その為にも俺は長生きしなくてはならない。


 俺はハンドタオルで体を拭きながら、未来を楽しみにしていた。それにしてもハンドタオルで全身を拭くのには限界がある。きつい。未来には体を一瞬で乾燥できるような機械が発明されていて欲しいな、と思うのだった。


【終】

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【短編】ババアの乳が見てぇ むーん🌙 @moon_moon_moon

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