『朝の色』


「なんさいになったら、おとななの?」


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 午前四時半、青い薄明かりからは雀の声。それと車の音……、お疲れ様です。

 ぐっと伸びをしてみると関節から音が鳴った。この音が鳴るたびに身長が一ミリずつ増している。つまり成長期で、この頃脂が胸にクるのとは相関関係が無いのだ。


 そういえば今日は母の命日ではないか。時間帯もちょうどだろうし、確か。

 しばしの黙祷。

 瞼の裏と視界いっぱいのビニールクロス。ずっと前から変わらない光景(ただし明度を除く)。


 母が亡くなったのは五歳のころで、今からなんと二十年前。訃報を聞いたのは託児所で寝ていた時。朝っぱらにたたき起こされて、訳も分からぬまま飛行機に乗せられた。

 いや、訳が分からないわけでもなかった。なぜなら夢の中で母に会ったのだ。

 本当なんだって、落書きみたいな故郷の光景の中、母とよく歩いた道の曲がり角で手を振られたのだ。手を振り返そうとしたら、すごい顔した施設の人に起こされて、何かあったのは確実じゃないか。


 なんでそんな夢を見たかな。七つまでは神のうちってやつ?しかし小さい頃から適当をのたまうものだから、誰からも信用されなかったな。

 火葬が終わって、後にした施設の空が明るかったから、「おかあさんがいる」と言ったけど誰も何も言わなかったし。


 思えば人生の黄金期でもあったな、五歳。あれから二十年だから、三百かける二十、六千。六十かける二十、千二百。五かける二十、百。七千三百日経った?嘘だぁ。

 小学校の頃の三十日に怯えてたことを思えば、なんてことも無いかもしれない。

 こわい、こわい。


 横を向いていたのを、仰向けの姿勢に変える。何度目かの体勢変更。まるで春の天候。転向だけに。いぇあ。

 笑えない。泣けてきた、気持ちだけ。

 どうか泣いてくれないだろうか。どう?無理だってさ。


 あと一時間半後には、安全地帯を出て風呂に入らなければいけない。上咽頭に小さな泡みたいな違和感。


 誰か手を握っていてはくれないだろうか。優しくお腹に手を添えてはくれないだろうか。なんで一人なんだろうか。

 理由は考えないでもわかる。というより、反証を集めるほうが難しい。この何十部屋もあるマンションで、一人な人のほうが多いだろうし。

 寒さに耐えるだけの用意が無いだけだ。ずり落ちていた羽毛布団をかけなおす。鳥の声が増えてきた。


 空が落っこちてきてくれないだろうか。自転が急ブレーキをかけてくれないだろうか。あれ、昔はヒーローを待っていたはずなのに。

 喉の違和感。


 いいや、起きよう。

 布団を放って、フローリングの冷たさに着地する。ふらついて敷布団と再会した。低血糖だ。

 また起き上がって、卓上にある二枚だけ残った食パンを片方そのままかじる。むせた。残りの一枚はレンジにかける。

 残り時間を見ながら、今日の予定に思いを馳せた。会場まで徒歩、電車、徒歩で二十四分。出勤押して、着替えて、今日は外回りの警備と正面入り口のチケットもぎり。後半組と代わったら、グッズ売り場を担当する。帰れるのは二十三時手前になるだろう。

 温めたパンおいしいなぁ。

 時計を見ればもうそこそこいい時間。シャワーを浴びよう。そして今日も良い子に夢を届けなければ。

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