第10話 太陽神は闇夜に微笑む

 ヘリオスは倒した。

 だが、一向に起きる気配がない。


 まさか、カトリさんの一撃で……などという不吉な思いを抱いた私の目の前で、カシマさんがヘリオスの隣に腰を下ろした。


「おーい、にーちゃん。そろそろ目覚ましメザシの塩焼きだぞっと」


 ヘリオスの胸の上にカシマさんが右手を置いた瞬間、部屋の中で青い電光がスパークした。


「……げ、げほっごほっ!あ、あれ?僕、生きてる!?」

 

 息を荒げながら、ヘリオスが身を起こす。

 神様に心臓があるかどうかはわからないが、カシマさんの雷撃で息を吹き返したようだ。


 そう。

 鳴神カシマは日本神話の雷神タケミカヅチの、一方の祝乃カトリは軍神フツヌシの化身である。

 高天原が蕃神録のために遣わした特級エージェント。

 それがカシマさんとカトリさんだ。


 まあ、今回も無事に終わりそうでよかった。

 ほっと胸を撫で下ろす私の前で、ヘリオスがカシマさんの手にした花束に手を伸ばし、そこから紫色の花を抜き取った。


「ヘリオトロープだ。僕に恋をした妖精ようせいが、僕に邪険に扱われて気を病み姿を変えてしまった花だ。ひどいことをしてしまった。ごめんよ」


 ヘリオスの両目から涙が伝う。

 なるほど。先ほどヘリオスの動きが止まったのは、この花を見て自分を取り戻したからに違いない。


 感傷に浸っている私の後ろから、あの鬱陶しい光の波が押し寄せてきた。

 こっちの太陽神も目が覚めたようだ。

 てっきり怒り出すかと思っていたが、インティは朗らかに笑いながらヘリオスの前でリラックスのポーズを取った。

 

「ハハハハハ!ヘリオス君!何故、花は美しいと思う?」


「……いや、わかりません」


「ハハハハハ!それはね、花が笑っているからなのだよ!花を見ると神も人も笑うだろう!それは花の笑顔をみて、こちらも笑みを返しているのさ!」


 何かに打たれたかのような顔で固まったヘリオスの傍らに、私は静かに腰を下ろした。


「その妖精さんも、きっと喜んでいるんじゃないですか。だって、やっと愛した方と目の前で出会えたのだから。笑ってますよ、きっと。だって、こんなにきれいに咲いてるんだし」


 私が浮かべた静かな微笑みに、ヘリオスは涙を流しながら笑顔を浮かべた。


 ビルの外は闇夜だが、彼の笑顔は太陽の光そのものだった。

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