第9話 暗夜に雄鶏が哭く
時として、神々は様々な姿と性格を持つ。
神話において、穏やかな神が突然怪物のような姿に変わったり、人間に害悪をもたらす存在になるエピソードは数多い。
蕃神録計画においても、変身する神々とは何度も出くわした。
我々神祇部は、それを転換という言葉で定義している。
とある神の一つの
転換が起こった場合、目の前のヘリオスのような状態になる。
黒い霧の渦が消え去った時、そこに人の姿をしたヘリオスはいなかった。
そこにいたのは、冠を被り、牛のような野太い声で雄たけびを上げる、見上げるほどに巨大な雄鶏。
雄鶏はヘリオスの象徴だ。
ヘリオス、陰キャをこじらせて怪鳥になってしまったか。
異形の姿に成り代わったヘリオスの前で、一方のインティはたじろぐどころか平然とラットスプレッドのポーズを決めて高笑いをしている。
「ハハハハハ!ヘリオス君!ずいぶんと立派な姿になったな!だが、思い出せ!君の人としての姿を!我が高貴なる肉体美を見て思い……」
インティの言葉は、ヘリオスの翼の羽ばたきによって掻き消され、彼の身体諸共ビルの壁に叩きつけられた。
しかし、吹き飛ばされてもラットスプレッドのポージングを崩さず、笑みも浮かべたままとは恐れ入る。見たところ、完全に気絶はしているようだが。
だが、インティが気を失ったおかげで、あの妙に暑苦しい光のウェーブは消え去った。
ここからは、私たちの仕事だ。
「ヘリオスが転換しました!文化庁神祇部の規則に基づき、討伐対象に指定します!カシマさん!カトリさん!備えてください!」
「言われなくても」
私の横を黒い疾風が駆け抜け、ビルの床を蹴った。
カトリさんだ。
既に、その手には愛刀、
落下しつつカトリさんが振り下ろした鞘の先の
「カシマ。刀を抜いて、私の援護を」
「任せて会わせてイヨマンテ!熊じゃなくて鳥だけどね!」
優雅な所作で着地したカトリさんに笑顔で応えたカシマさんが肩にかけていたホルダーから刀を取り出……。
「じゃじゃじゃじぇじぇじぇロマン鉄道!はーなーたーばー!」
花束だ。
刀じゃなくて、お花の束だ。
「あ、これ?上野公園で見知らぬお姉さんからもらった」
半眼でカシマさんを責め立てるカトリさんに、カシマさんがヘラヘラ笑いながら花束をぶんぶん振り回す。
カシマさん、また刀を忘れたのか。
二人のやり取りに呆れたのか、それとも、一人はまるで役に立たないと察したのか、甲高い雄叫びを一声あげると、ヘリオスが凄まじい速度で二人に突進してくる。
祝一文字を手にして構えをとるカトリさんの横を、カシマさんがするりと歩み出た。
「ちょ……!カシマさん、危ない!」
「おーい!にーちゃん、元に戻れモントレーボブスレー!この花を見て、落ち着けよー!」
私の悲鳴など何処吹く風で花束を振るカシマさんの目前で。
ヘリオスが、止まった。
何か大切な宝物でも見つけたかのように、ヘリオスの視点は花束の一点に注がれている。
その隙を、カトリさんは見逃さなかった。
旋風のように地を走り跳躍したかと思うと、回転しながら鐺でヘリオスの眉間に撃ち抜いた。
瞬間風速三十メートルは余裕で越えそうな風圧と共に、ヘリオスの背後の壁に蜘蛛の巣を思わせるような亀裂が炸裂する。
一声も発することなく、雄鶏は床に倒れ伏す。
やがてその身体から吹きあがった黒い霧の渦が消えた時、ヘリオスは元の人間の姿で床に横たわっていた。
どうやら、決着のようだ。
大きく息をつき、私も床に腰を下ろした。
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