第6話 彼が陰キャになったワケ

 陰キャ。

 少々前にネットで流行った言葉である。

 明確な定義はないものの、おおむね、自分や周囲にネガティブな思考や言動をする人のことを言うらしい。


 確かに、ヘリオスは陰キャの枠に入るかもしれないが、よもや、太陽神が陰キャとは流石に予想もつかなかった。


 とはいえ、データによればヘリオスが陰キャという記述は無い。

 何か原因があって、ヘリオスは陰キャになったに違いない。


「にーちゃん、落ち込んでても楽にはならないぞー?暗いらくを明るいらくに変えましょ?愚痴ならウチが聞くだけ聞くよ」


 カシマさん、ナイス。

 こちらが聞きたいことを切り出してくれた。

 それにしても、落を楽に、か。カシマさんにしては、ウマいことを言う。


 言葉自体の意味は伝わっていないが、言葉の真意はヘリオスに伝わったようだ。 

 ヘリオスはゆっくり顔を上げると、陰鬱な口調で滔々と語り始めた。


「そもそも、オリュンポスの太陽神は僕だったんだ。なのに、洞窟にこもって予言とか魔術とか根暗な力を取り扱っていたアポロンが、何故か僕の代わりに太陽神の座についてしまった。人間たちは誰も彼もがアポロンアポロン。何時しか僕は忘れられ、気が付いたら、この公園に立っていた」


 なるほど。

 確かに、ギリシャ神話の太陽神といえばアポロンが圧倒的に有名だ。神話のエピソードも芸術の題材も数多い。


「誰も僕を覚えていない。誰も僕を必要としない。僕はダメだ。ダメな太陽神、いや、ダメな神様なんだ」


 完全に自信を喪失している。陰キャの状態で消失し、時を経て、陰キャのまま顕現けんげんしたのだろう。

 見た所、積極的に人間に危害を加えるような存在ではなさそうだが、かといって、このまま関東地方が永久に曇り空になってしまうのも問題である。

 どうにかして、彼の自信を回復させるしかない。


「ヘリオス大神、この日本ではあなた以外にも太陽神がやすらいまつられています。我々がお連れしますので、一度、お会いになられてみては如何ですか?あなたが太陽神としての自信を取り戻すきっかけになるかもしれません」


「さんせいのよんせい隔世遺伝。かのちゃん、誰のところに連れて行くつもり?」


 うつむくヘリオスの横で能天気な言葉を続けるカシマさんに、私は、とある太陽神の名前を告げた。


 ぐへー。


 というカシマさんの形容しがたい叫びと同時にカトリさんの形の良い唇がぐにゃりと歪む。

 明らかに、両名ともに拒否感があるようだ。

 それは私も同じこと。

 だが、これほどまでに陰キャをこじらせてしまったヘリオスを立て直すには、相対的な陽キャの太陽神の力を借りるしかない。

 関東に朝日を取り戻すため、黄昏時を迎えた上野公園を後にし、私たちは港区に向かうことにした。

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