第5話 暗褐色に沈む不忍池

 不忍池に到着すると、私はヘリオスをベンチに座らせた。すかさず、その傍らにカシマさんとカトリさんが腰を下ろす。

 

 公園のベンチは私たちの第二のオフィスだ。神々は普通の人間には見えないので、私たち三人が同じ方向に向かって喋っていると不審がられる。だが、こうして互いに向かい合って語り合えば、遠目には女子が三人、話に花を咲かせているように見えるという寸法だ。そこ、お前も女子なのかとか言わないように。


「でさでさでさの佐渡おけさ。質問オッケーサ佐渡オッケーサ。にーちゃん、なんでそんなに暗いの?」


「カシマさん、もっと質問は慎重に……。誠に申し訳ありません、ヘリオス大神。実は、あなたがおられる場所を起点として、ここ数日、周囲一帯が曇り空となっております。原因はあなたが顕現されたからではという報告があったため、こうして会談の場を設けさせていただきました。拝見したところ、お気持ちが優れないご様子。何か心当たりがおありでしたら、是非ともお聞かせください」


 私とカシマさんの呼びかけに、ヘリオスは重いため息を漏らした。周囲の暗さが、より一層増した気がする。


「そうか。この雲は僕が呼んだのか。太陽神なのに、情けない。だから、僕はダメなんだ。ダメな神なんだ」


 ため息を連発しながら、ヘリオスは腰が折れんばかりに頭を深々と下ろしていく。

 こっちの頭と気持ちまで地面に落ちてしまいそうだ。


「僕がこんな性格をしているから太陽を曇らせているのはわかってる。僕は太陽神失格だ。かつてのように、僕が空で輝く日はもう来ないんだ。」


 ちぎれ落ちんばかりの勢いで、ヘリオスが下げたままの頭を左右にぶんぶんと振っている。見ているこちらの頭がどうにかなりそうだ。


 陰気なシェイクを興味深そうに見下ろしていたカシマさんが、突然、ぽんと両手を打った。


「にーちゃん、陰キャだな陰キャ。まー、にーちゃんみたいな神様いないことないけどさ」


「……陰キャ?なんだい、それは」


 ぬらり、とヘリオスが頭を上げた。


 ああ、もうまたよけいなことを。


 私の背中を、冷や汗が滝のように流れていくのが分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る