第2話
-あなたはいつも優しくて。
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あー、テスト。撮れてるよな? これ。
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羽毛布団を叩く、くぐもった音で意識が浮上する。
が、瞼は開かず、二度寝を試みてみる。
……、布越しとはいえ、流石に腹部が痛くなってきたので、観念して目を開く。
「おはよう、ヨコスカ!」
「…………、おはよう。」
「ヨコスカ!わたし、まほうしょうじょになる!」
日曜日、憂鬱な一週間の始まりだ。
馬乗りになっている彼女を少し苦戦しながらもどける。布団からむくりと起き上がって、足元にあるはずのスリッパをつま先で探るが。あれ、無い。
よく見ると彼女が履いていた。ひとつため息をつき、彼女へ返答を返す。
「無理だよ。」
瞬間、投げつけられたスチール缶のカドが鼻頭に刺さる。質量を考えるに、これは未開封の缶コーヒーだろう。そこらに置いてあるし。
落下した缶が先ほどまで寝ていたマットレスでバウンドし、そのまま左足の小指に追突した。折れていないことを祈る。
「むりじゃないもん!できるもん!」
見ていて!と言って彼女は菜箸をくるくると回しながら己自身も回って見せた。負傷の確認はさせてもらえないらしい。
「へ~んしん!」
ベタに白煙がぼふりと発生する。当たり前だが、小気味のいいBGMや虹色に光るエフェクトなどは附随しない。そして、視界の晴れた先には、見慣れた顔。つまり僕がいた。
…………、ふむ。
「どう?」
一旦ローディング、ベターな返しを考えよう。
オンナノコって外見を褒めたらいいんだっけか。僕の顔だぞ?どこを褒めたらいいんだ。
うーん。よし、わからない。
「ねー、どうなの!」
「それは変身じゃなくて擬態だな。」
二缶目が飛来、鳩尾に追突。素敵な返答のお礼は見事なボディーブローだ、これも未開封品だった。
「むきー!むずかしいこといわないで!」
彼女、シジミちゃんは持っている菜箸をばしばしと机に叩きつける。あ、へし折れた。ついでに投げつけられた。
「擬態についてはネットで調べろ。ただ言えることは、たとえお前が変身できたとてそれだけで魔法少女にはなれないし、そもそもお前はその変身すら出来ていないってことだ。」
咳混じりにそう答えれば、ぷっくりと膨らむむくれ面。僕の顔でやられなければ可愛かったのだろう。
微笑ましいなと他人事のように思っていたら拳が飛んできて、それが局部に突き刺さった。成人男性の図体で放たれたそれには流石に蹲る。
「……、魔法少女になるなら、一般人に暴力は禁止だ。」
この世界が『こう』なったのはいつからだったか。
--五年前、某県の某湖から巨大なモノリスが出現した。
それは見た目から想像される質量とは裏腹に発生時はまったくの被害を及ぼさず、騒ぎの大きさとは裏腹に、時間が経つにつれ話題は風化していった。
ああ、出現地点の近くにあるパーキングエリアで『モノリスくん羊羹』が発売された、という出来事はあったか。それと、鳥人間コンテストの開催見合わせ。
それ以外は、ネットで消費される程度の存在だったな。
そう、当時その未確認物体は『表面上の被害』を出さなかったのだ。
問題が現れたのはそれから一年経ったある日のこと。
モノリス出現から二年、日差しの暖かい日だった。
昼時も近づき、人通りを増していく歩行者天国。そこにビル八階分はあるだろう奇怪な大蛇然とした存在が突っ込んできて、お約束とばかりに大暴れしたのだ。
これに対し自衛隊や某国の部隊が派遣されたが、結果は惨敗。被害は増すばかり。
誰もが絶望したとき、その存在は現れた。
誰が呼んだか、『魔法少女』。彼女たちはその華奢な身体にそぐわぬ身のこなしで、大蛇を見事に撃退したのだ。
たった数分の出来事だったそれは、SNSやメディアを通じて世界的に知られることとなった。
空想と現実が、愉快に綯い交ぜとなった世界になったのはあっという間の出来事だった。
その怪獣出現を皮切りに、世界各地で様々な怪獣が出現したのだ。同時に、それに対抗する存在もまた現れた。やれ異世界の勇者だの、超能力者だの、魔法使いだのとニチアサみたいな輩がどんどんと現れた。
それに異常気象や未開の大地の出現。未知の動植物も発見されるし、所々陸地が空中浮遊して飛び立っていたことがわかったり。
これは後に判明することだが、正確には一度にこれらが現れたのではなく、各国政府や研究機関がひた隠しにしていたのが『首都怪獣大戦争』のおかげで露見しただけだ。
そう、モノリスによる影響は水面下で起きていたのだ。な、なんだってー。
「ヨコスカ、おなかすいた。」
そして、ここにおわすシジミ嬢もまた、例のモノリスの影響で現れた存在なのである。
「ねー!まだー!」
袖をぶんぶんと振り回される。膂力がエグい。袖より先に肩が千切れそうだ。
「わかった。今用意するから、椅子座ってろ。あと変身とやらも解け。」
うん、と素直な返事と共に、彼女(今は僕の姿だが)の体が、切れ目を入れられたミシン糸のようにほどけていく。
中から現れたのは、柔らかな銀糸のような頭髪に、玉のような紫の瞳をもった小柄な少女だ。
彼女こそがシジミちゃん。小さな体躯の、怪物である。
「ごっはーん、ごはんー。おいしーいーごーはんー。」
音痴だなぁ、と思いながら隣室の扉を開ける。
この部屋は苦手だ、そもそも僕は生き物が苦手なのだ。正確には生物の発するアンモニア臭が苦手。
ラテックスの手袋をはめて、金属ラックに並べられた4つの衣装ケースのうちひとつを引き出す。すると、ケースの住人、ラットが隅にぎゅうと詰まっているのが見えた。
その内、拳よりも大きいくらいに成長しているものを選んで尻尾を捕まえ、深めのタッパに移す。
ラットは、ドブネズミが家畜化された存在だ。だから、街中の側溝周りに出るやつらと違って人に慣れている。こうして手を近づけても、噛みついてきたりはしない。……それはいいのだが、臭いだけはどうにかならないものか。僕だって元は研究者だ、ラットの飼育環境には自信がある。それでも匂うのだ。これを友人に相談したこともあったが、「お前嗅覚鋭いもんな」と笑われただけだった。
発育のいい個体を四匹ほど見繕って、ついでに成体の健康状態も確認してから、手袋を捨てて部屋を出る。
「おそーいー。」
お嬢様が食卓に溶けていた。
「よく待てました。」
簡単な労いに、彼女は自慢げな笑みを浮かべる。まったく扱いやすい。
彼女の前にタッパを置き、蓋を開ける。箱の縁に手をかけようと、ラットが背を伸ばす。その伸び切った背に、幼い手が回された。
「ね、たべていい?」
「いいよ。ご飯を食べる前には?」
問い掛けに彼女は元気にうなずく。
「いただきまーす!」
がぶりと、彼女はラットの首に歯を、牙を突き立てる。毛皮にぶつりと穴が開いて、ラットは発泡スチロールを擦り合わせたような声を発し、四肢を緊張させてくたりと弛緩した。
ややすると液体を啜る音が響いて、ラットの体はみるみると萎んでいく。まるでパックのゼリー飲料でも飲み干したように、ラットは骨に皮が張り付いただけの物体と化した。
それが四体分、これが彼女の食事だ。
それを横目に眺めつつ、テレビの電源をつけた。
『……として調べを進めています。続いては本日の都内危険度予報です。○○区では……』
人間、意外と順応性は高いもので。今では異常存在超常現象を隣人として扱っている。こうなるまでに株価の乱高下で自殺者が増加したり、議会が盆踊り大会したけども。
ネズミの悲鳴を聞き流しながら、今日の朝刊を広げる。『魔法少女大手柄、音叉の怪人を撃退』ねぇ。
なんでも、よく表れる『怪獣』と、まれに表れる『怪人』は別物なんだそうだ。怪獣は大体大型の獣の姿をしていて、知能が低いらしくただただ暴れる。一方怪人は人型で、知能も高い。だからこそ、戦闘力も高く被害が大きくなりがちだ。そんな怪人を倒したとあって、新聞では大きく取り上げられている。
今まで確認されている怪人は『爆炎の怪人』『烈風の怪人』『激流の怪人』『堅氷の怪人』、それに今回の『音叉の怪人』。
なんともおあつらえ向きだ。
「ヨコスカ、食べた!」
「はい、食べ終わったら?」
「ごちそうさまでした~!」
偉いねぇ。僕がガキの頃はいただきますも、ごちそうさまでしたも雑に言ってたもんだ。
「今日はずっと天気いいってさ。散歩でも行く?」
「いきたいー! こうえんでハトおっかける!」
「それは勘弁してやりな。」
「……んー、じゃあさ。ヨコスカ。」
シジミちゃんが、まだ指先に血の匂いを残したまま、ぽそりとつぶやいた。
「ゆうえんち、行きたい。」
いつも明るさを振りまく彼女が、神妙につぶやくのだから、少し面食らってしまった。
そうだな……、テレビでは近所の遊園地がある区の危険度は「低」と告げられている。出かけるには、まあ、ギリギリ悪くない日だ。
「……遊園地、ねぇ。」
僕は背もたれに体重を預け、わざと大げさに腕を組んだ。
「勉強は?」
「うっ、あとでやる!」
「掃除は?」
「かえってきたらする!」
「じゃあラットの健康管理は──」
「いっしょにするから!」
間髪入れず答える彼女に、苦笑が漏れた。
どのみち、彼女が外に出たがるのは珍しいことだ。いつもは家に引きこもって動画サイトみてはぐうたらしているだけだし。
……ついでに消耗してくれれば、夜は大人しく寝てくれるかもしれない。
「……わかった、行こう。夕飯までには戻るぞ。」
「やったぁー‼」
歓声を上げながら椅子から飛び降りた彼女は、勢いあまってテーブルに膝をぶつけた。
その痛みに顔をしかめながらも、シジミちゃんは嬉しそうに、嬉しそうに笑っていた。
遊園地は、昔ながらのチープさを残した、都内でも有数の歴史的建築物のタイプだった。
錆びた観覧車に、微妙に傾いたメリーゴーラウンド。ペンキの剥げたチケット売り場のカウンター。
「ここ、ほんとに楽しいの?」
僕が尋ねると、シジミちゃんは子どもみたいに胸を張った。
「たのしそうなところを、たのしむの!」
哲学的だ。まあ、そんなもんか。
最初に乗ったのは、年季の入ったコーヒーカップ。
シジミちゃんは金属のきしむ音も気にせずカップの真ん中のハンドルを全力で回し、僕はまともに酔った。
降りる頃には、まるで二人で酒盛りでもしてきたかのような足取りになっていた。
「うわぁ!ヨコスカ、よろよろしてる~!」
「うるさい……人間の三半規管を舐めるな……」
次はシューティングゲーム。
小さな銃を握ったシジミちゃんは、ありえない精度で的を撃ち抜き、並んでいた子供たちからの賞賛で気恥ずかしそうにしていた。
そして景品として受け取ったトラのペアマスコットを、「はい!」と片方僕に押し付けた。
「ヨコスカの、まもりがみ!」
「おー、ありがとう。」
寸法八センチの神様とは頼りがいがあるのやら。
シジミちゃんのマスコットにはリボンがついていて、相当気に入ったのかリュックサックに苦戦してでも飾っていた。
そのあとも、メリーゴーラウンドに無理やり乗せられたり、安全バーが安全でなさそうなジェットコースターに乗ったり。
ひたすら子どもらしい「楽しい」を、シジミちゃんは全力で消費していった。
そして夕暮れ。
観覧車の頂上で、彼女がぽつりと言った。
「また、来ようね。」
小さな手が、僕の袖をぎゅっとつかんでいた。
「……ああ。」
そう答えながら、僕はふと思う。
この日常は、どれほど不安定なものだろうかと。
でも、今は──考えないでおこう。
シジミちゃんが、こんなにも嬉しそうなのだから。
その後、土産物売り場でも見ようかと坂道を歩いている時だった。
「あ、あの……。」
背後から声がかけられる。それに二人で振り向けば、遊園地のスタッフであろう女性が慌てた様子でいた。
「お客様、こちらのトラさんとはぐれてしまっていましたよ。」
そう言って浮かべて差し出してきたのは、先ほどシジミちゃんが手に入れたトラのマスコットだった。
シジミちゃんは自分のカバンにマスコットがついていないことに気が付いたようで、ハッとしている。
それにスタッフのお姉さんは、マスコットの手をピコピコと動かして、「寂しかったヨゥ、置いてかないデェ。」とおどけて見せた。
彼女はにこっと笑っていて、でもどこか無理しているような、ちょっとだけ疲れた顔に見える。目の下の隈のせいだろうか。社畜か?
「あ、わわ。置いてっちゃってごめんね、らーくん。」
真に受けているな。
「……大事にしてね。すぐ、どこか行っちゃうから。たいせつなものって。」
マスコットを差し出されて、シジミちゃんはおずおず受け取った。
「……ありがとう」
「ううん、こっちこそ。今日、たくさん楽しんでね。……夢、届けるからさ」
それにシジミちゃんはきょとんとして、それにスタッフのお姉さんは気恥ずかしそうに口を開く。
「あ、『夢見る笑顔カラフルランド~』って、ここのコマーシャル見たことない……? ないよね、ごめんね……。」
「え、ううん。見たことあるよ!『ゆめをお届け~みんなスマイルゆめいっぱ~い』でしょ?」
そうシジミちゃんが答えると、お姉さんはパァッと表情を明るくさせた。
「そうそう! 昔から変わってないんだよ、この歌。……あ、話し込んじゃったね。この後も楽しんで!」
そう言ってお姉さんは手を振り、別の持ち場に戻ろうとする。
その背中を、シジミちゃんはなぜか少しだけさみしそうな瞳で見つめていた。
そこに――
ドン。と地響き。
そして奇妙なものが視界に入った。
そこには、デカいパンダカーがあった。――いや、違う。
それは一切デフォルメされていない、現実にいたら困るタイプのリアルパンダだった。毛並みはまだらに汚れ、ぎらついた目は乾いた飢えを湛えている。歯茎がむき出しになった口元から、涎が地面に糸を引いて垂れ落ちていた。
あんなの、動いていいわけがない。十中八九、怪獣だろう。
気づいたときには、もう遅かった。
パンダの怪獣が、腐ったような唸り声を漏らしながら、近くにいたお姉さんに向かって突進してきた。
「危ない!」
僕はとっさに飛び出した。
お姉さんを突き飛ばし、自分が盾になる。
「ヨコスカ!」
シジミちゃんの叫びが聞こえる。
がらんどうの遊園地に、ぞっとするほど生々しい咆哮が響き渡る。
その時にはすでにシジミちゃんが異様なパンダに向かって跳びかかっていた。
「ひっさ~つ!まじっくすらーっしゅ!」
間の抜けたキメ台詞を吐きながら、彼女は両手を左右に交差させる。
細い紐をぴんと引っ張ったときみたいな音が鳴った。シジミちゃんの指先から放たれた、目にも留まらぬ細い糸。
それがパンダ怪獣の巨体をなぞった。たった一瞬後、その体にかすかな線が走る。
――次の瞬間。
その線に沿って、皮膚がぱくりと裂け、押し出されるように臓物が飛び出した。
もっちりとした臓器たちは、湿った音を立てながら地面に叩きつけられる。
血液は溢れるというより、内圧に耐えかねて噴き出し、細かい霧となって辺りを染めた。
パンダ怪獣は自分の裂けた体にも気づかぬまま、のろのろと片足を踏み出し、そして崩れた。
うん、確かに一撃必殺だ。真っ二つになって生きている生き物などそうそういない。
「あのぉ……。」
あ、お姉さんをかばっているのを忘れていた。
「すいません、急によしかかってしまって。怪我はないですか?」
「私は大丈夫です。あの、お客様こそ大丈夫ですか?」
彼女の指差すほうを見れば、僕のズボンの裾に三本線の切れ目が入っていた。
「ああ、血は出ていないので問題ないですよ。」
「よかった……。あの、助けていただいてありがとうございました。」
彼女はそう深々と礼をする。
「いえ、自分は何もしていません。お礼は、良ければシジミちゃん……、えっと、連れのあの子に言ってあげてください。」
当の本人を見れば、軽く頬にかかった返り血に顔をしかめていた。
「ちょっと待っててください!スタッフルームからタオルとか持ってきますね!」
そういうや否や、お姉さんはすごい勢いで走っていった。
スプラッタ現場に近づくと、「ヨコスカ~」とシジミちゃんが寄ってきた。
「シジミちゃん、怪我してない?」
「してない!」
「それはよかった。」
そんなちょっとした会話をしている間にお姉さんは戻ってきた。スタッフルームがどこだかわからないが、足早すぎないか?
「これ、汚れ拭うのに使ってください。それから、こんなので申し訳ないですがお礼です……。」
そう言って、お姉さんはタオルと二本のペットボトルを差し出してきた。
「りんごジュースだー!ありがとうおねーさん!」
シジミちゃんは嬉々として片方のペットボトルを受け取った。
「ありがとうはこっちですよ。シジミさん、ありがとうございました。」
彼女の言葉にシジミちゃんは反射的にムスッとする。
「ちゃん!わたしの名前はシジミちゃん!」
「え、あ、すいません。……では、助けてくれてありがとうね、シジミちゃん。」
お姉さんの言葉に、シジミちゃんはご満悦なようだ。
そのやり取りの間に、いただいたタオル(わざわざ濡らしてある)でシジミちゃんの頬を拭ってやる。卵肌に汚れが残ってはいけない。
「タオルはお返しいただかなくて大丈夫です。園の粗品のものなので。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
話している間に、段々と現場が騒がしくなってきた。
「すいません、シジミちゃんは公的に活動している子じゃないので、今回のことは内密に。」
「あ、そうなのですね。魔法少女さんかと思っていました。」
その言葉にシジミちゃんはニンマリとさらにご満悦な表情を浮かべる。よかったじゃん。
「では、自分たちはここで……。」
「はい、本当にありがとうございました!」
お姉さんは周りに配慮して小さく礼をしてくれた。
「おねーさん。」
「どうしたの? シジミ……ちゃん。」
「ゆうえんち、ゆめいっぱいだった! また来るね!」
そうシジミちゃんが微笑むと、彼女はぐっと下唇をかみしめてから、「うん、また来てね!」と笑顔を浮かべた。
遊園地を後にして、しばらく歩くと人気のない通りに出る。
手渡されたペットボトルのコーヒーを一瞥し、シジミちゃんに目を向ける。
「のまなーい。」
だそうだ。シジミ嬢は苦いのが苦手である。
蓋を開け、数口飲む。うん、コーヒーの味。
それだけ確認して、残りを一気に飲み干す。
はい、ここで問題。穴の開いた容器に液体を注ぐとどうなるでしょうか。
答え、零れる。
「……。」
足首からだらだらと体内に入れたコーヒーが垂れ流れていく。
やはり先ほどの攻撃は当たっていたみたいだ。
「あー!ヨコスカ、また壊しちゃったの?」
「うん、繕ってくれる?シジミちゃん。」
いーよ!と彼女は元気な声で、指先から糸を伸ばして僕の足首に巻いていく。
ちょっと暇だ。建物の隙間からぼーっと空を眺める。
私事だが、ちょうど去年の今頃に僕は死んだ。
しかして今現在、僕は稼働中である。うん、生きてはいない。稼働中。
これには火星の山よりも高く、爛れた生ゴミよりも不快な理由があってですね。
「なおったよー。」
「ん、ありがとう。シジミちゃん、ご褒美に何食べたい?」
「いいの?クレープ食べたい!」
「クレープね、近くの通りにあったはずだから、行こうか。」
まあ、さっきの話はまた今度に。
そして、空になった容器は近くのゴミ箱に捨てた。
次の更新予定
魔法少女がわからない みぎのく @nagai_kirin
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