魔法少女がわからない

みぎのく

第1話


 -始まりは憧れだった。


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 これは彼女らの話でもなく、ただ『彼女』の話である。

 下記はただの記録映像であるため、気楽に鑑賞していただければ幸いだ。

 

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 劈くようなサイレン。晴天を薙ぐ光線と、倒壊した建物が地面に叩きつけられる重い音。

 圧倒的な破壊の中心地に、その異形はいた。


 スリムで流線型のシルエット。頭から背中にかけて伸びた巨大な音叉のような金属製の突起からは、青紫の眩い光のうねりが発生している。その音叉の怪人とでも呼ぶべき存在は、物音がした方向へと赤く光る単眼を向ける。


 その視線の先にいたのは、明らかに戦闘向きではない華やかな衣装を纏った、三人の少女たちだった。


 「こちらヴァルキュリーB。チームLight、総員三名現着。殲滅対象の情報開示を請求。」

 砂塵の舞う空間で、藍色の少女、ヴァルキュリーBの無機質な声が現場に緊張を走らせる。緋色の少女、ヴァルキュリーRは大きく肩を回しながら、ちらりと敵の姿を見据えた。

「フーン、なかなか硬そうなヤツじゃん。腕が鳴るぜ。」


『こちらオペレーター、了解しました。今回の対象は怪獣ではなく怪人です。通常の怪獣より強靭である点に注意してください。対象は音波を使用するため、ヴァルキュリーGによる防御を提案します。』

 イヤホン越しのオペレーターの指示が響くと、翠色の少女、ヴァルキュリーGが溜息をつきながら顔をしかめる。


「ヴァルキュリーG、了解やで。……はあ、怪人相手なんて、ほんま今日はツイてへんわぁ。」

 彼女の手元では風が微かに渦を巻き始め、緑色の光が淡く滲む。

「心配すんなグリーン。怪獣とそう変わらねぇさ、俺の炎であの怪人野郎をあっという間に溶かし崩してやるよ!」

 Rは拳に炎を宿らせ、豪快に笑いながら前へ出る。だが、その言葉にすかさず冷たい指摘が飛ぶ。


「R、作戦時はコードネームの使用を推奨。また、アナタの力は音波に弱い。先走らないように。」

 Bは視線も動かさず、モニターに映る数値を確認しながら淡々と告げる。

「あーはいはい、わかったよ。」

 Rが口を尖らせながら言い返すと、Gが肩をすくめて苦笑した。


「Gは対象の攻撃を防御、漏れた攻撃は私が防ぐ。その隙にアナタの火力を叩きつけて、R。」

 Bの分析的な指示に、Gが小さく頷く。

「はいなぁ。」

 風が彼女の指先で踊るように渦を巻き、彼女は一歩前へ進む。

「いいぜぇ、ぶちかましてやるよ!」

 炎がRの拳にさらに力強く灯る。


「ま、牽制くらいさせてもらいましょか。変幻自在、鎌鼬!」

「G!先走らないで!」

 静止の声など聴かずに、彼女は手にしていた扇を振りぬく。風が切り裂く音が響き渡り、勢いよく不可視の刃が敵に向かっていく。

 その刃が怪人に触れると同時に、コォンと甲高い音と共に青紫のエネルギーが溢れるように発光し、彼女が放った刃を呑み込んでいった。

 

「なんや、攻撃を……吸収しとるんか?」

「そうなりゃやることは単純、二人とも!スリーカウントで総攻撃だ!」

「否認!戦略を練り直すべき、」

 Bの声を無視し、二人は光を放ちながら力を溜め始める。

「さん、にー、いち!グレイトファイア!!」

「鎌鼬!」

「クッ、ウォーターフォール!」

 二色の光に遅れて藍色の光も混じり、白く輝く閃光が怪人へと向かう。

 すると、先ほどよりさらに大きな金属音を放ちながら怪人はその光線すらも跳ね返す。その矛先は、三人へと向かっていた。

 

「んなっ!?コイツマジか!」

「防御!!」

 Bが前へと出て、藍色の障壁を展開して攻撃を受け止める。その威力を押し止めることはできず、ついに障壁ごと三人は吹き飛ばされてしまった。

 

 すさまじい勢いと共に彼女たちは建物に叩きつけられる。

 常人なら即死してもおかしくないというのに、しかし彼女たちは心身共に折れたりしない。

「こほっ、この威力、明らかに増幅されとるんとちゃいます?」

 咳き込みながら傷だらけの体でGは立ち上がる。

 それに続くように二人も立ち上がる。

 全員の目からは闘志こそ消えていないが、不安の色が浮かんでいた。


 ふと、Rの指先が震える。

「飛べ!」

 彼女は鋭く叫ぶ。

 

 直後、強い衝撃が彼女たちを襲う。

 暴力の波で散り散りに吹き飛ばされ、受け身を取ることすらままならない。

 直撃こそ免れたが、巨大なクレーターを作るほどの一撃に、彼女たちは立ち上がれなかった。

 攻撃を跳ね返す力に、不可視の一撃。

 圧倒的な力を前に、RとGは歯を強く噛みしめ、Bは短く息を吸う。

 

 

 突如無線が入った。

『オペレーターよりLightへ、対象の攻撃反応装甲を確認。現行では押し切られます。』

「わかってんだよ!今考えてんだろうが!」

 苛立つRの耳に、淡々とした声が返される。

『増援を要請しました。まもなく到着します。』


 その声に、三人の動きはピタリと止まった。

「んなっ。」

「まさか……。」


「そう、そのまさかです!」

 彼女たちの背後から玉を転がしたような清廉な声がかかる。その先には、三人の美麗な少女たちがいた。


「愛と正義の名のもとに!チームColor、ただいま見参!」

 紅紫の少女、ヴァルキュリーMが元気よく手を振りながら段差から飛び降りる。氷の冷気を纏ったもう一人少女、ヴァルキュリーCが冷静な表情で状況を見渡す。そして、彼女の後ろに隠れるようにCの袖を掴んでいたレモン色の衣装を身に纏った少女、ヴァルキュリーYが顔をのぞかせた。


「ッ!出やがったな首輪付きども。」

「こちらヴァルキュリーC、チームColor、現着しました。」


 全員を巻き込むような巨大な音波が怪人から再び放たれるが、Cの手の一振りで冷気が波を凍らせるように拡がり、音の勢いがシンと鎮まった。


「氷で音の振動を減衰させました。Y、貴方の出番です。」

「は、はいっ!」

 Yが緊張した声で応え、音の力を纏った光輪を怪人に向けて放つ。それは怪人の纏っていた音波を打ち消し、次第にその動きを鈍らせた。

「クソが、なんちゅー出力だ……。首輪どもが、また手柄持ってくつもりかよ。」

 拳を強く握りしめるR。同意だと言わんばかりに、Gも険しい表情を浮かべた。


「みんな、今だよ!」

 Mが桃色のエネルギーを胸に宿し、仲間たちを鼓舞するように叫ぶ。その声に背を押されるようにそれぞれの力が一斉に解放され、自然とひとつになった光の束が怪人を飲み込んだ。


 抵抗もあえなく光と音が収束して爆発し、怪人は跡形もなく消え去った。辺りには静寂が戻り、彼女たちは残心を解かずに爆発した先を見つめる。

 

「やったー!やったよみんな!」

 それを打ち破ったのはMの声だった。嬉しそうにRにハグしようとして、頭を鷲掴みにされて止められる。

「やめろ!引っ付くなうっとおしい!いいか、勘違いしないように言っておくが、怪人との戦闘は初めてだったから協力してやったまでだ。怪獣ごときだったら俺らで十分!オメーらに貸しは作らないからな首輪野郎!」

 そんなRの辛辣な言葉も気にしていないようにMはニコニコと笑う。

「あはっ、貸しなんて思ってませんよ先輩。歴戦のLightに、パワーの私たちが一緒なら、どんな敵が相手だって負けないんですから!」

「いっつも情報が集まるまでオレたちがサンドバッグになってるだけだろうが!」

「あれだけの猛攻を耐えきれるのは、先輩たちだからこそですよね!かっこいいです!」

 きらきらとした目を向けられ、Rは所在なさげに瞳をうろつかせる。


 その様子を見ていたGは大きくため息を吐いた。

「あんさんはそうやって人好きしそうな態度でいはったらよろし。ほんま、Mさんは頭の花が満開で惚れ惚れしますわぁ。」

「G先輩まで、ありがとうございます!」

 Mが大きく頭を下げたところに、指をもじもじさせながらYが近づく。

「ま、マゼンタちゃん、これ嫌味だよぅ。」

「ええっ!?」


 そもそも!とRが声をあげる。

「俺たち光の戦士が居ればお前らは不要なんだよ!首輪付きのワンコども。」

「あらぁ、レッドはん。私、チーム名はカラーオブライツがいいって言いましたやろ?ほんま安直なんやから。」

「あ!?」

「二人とも、当該集団は正式名チームLight。また、喧嘩は同じレベルでしか起きない。不毛であると提示。」

『誰がこいつと同レベルだって!?』

 綺麗なハモリであった。

 

 三人のやりとりに、Mはクスクスと笑う。

「ふふ、Lightの皆さんって本当に仲良しだよね。」

「マゼンタぁ、これただの喧嘩だよ。この人たち仲良しなんかじゃないよぉ。」

 あわあわと声をあげるYの頭に、Cが落ち着かせるように手をのせる。

「イエロー、安心してください。彼女らはあれが平常運転です。」

「シアンまで!確かにそうだけどぉ。と、止めなくていいのかなぁ。」

 Cはチラと未だ言い争いを続ける三人を眺め、その空色の瞳を細める。

「大丈夫ですよ、いずれ鎮火するでしょう。それよりも、私たちは報告に戻るとしましょう。」


 そのCの声が聞こえたのか、RがずんずんとC達に向かう。

「オイ待て!テメーらに手柄はやらねーぞ!」

「わかってるわよ、レッド先輩。これはみんなが力を合わせたおかげだもんね!みんなの成果だよ!」

「え、あ、いや。……そう、だな?」

 と、先ほどまで息巻いていたのが嘘のようにRがおとなしくなる。

 

「レッドはん、なーんであの娘にはペース崩されるんやろなぁ。」

「グリーン、アナタも人の事は言えないはず。」

 Bのその言葉に、まさかとGは嘲笑を返す。

「はぁ、ほんま姦しくてやになるわぁ。ほら、あとは解析班に任せて帰るで。」

「ああ、待ってくださいグリーンさぁん!」


 帰路につこうとするGのもとに、慌てた様子のYが近寄る。

「なんや、騒音娘。」

「そうおっ!?……あ、じゃなくて。腕に怪我がありますから、治しますよぅ。」

「あら、気ぃ利くやないの。ほなお願いしましょか。」

 そう言って、素直に差し出された手にYは手をかざして治癒魔法を使う。

 

 その光景を眺めながら、ぽつりとBは呟いた。

「アナタもたいがい、絆されていますよ。」



 ---


 と、それを画面越しに見ていた少女が一人。

 ベッドに寝転がった姿勢のまま、口元をにまにまと歪ませながら、悶えるように転がる。そのたび、白い柔らかな髪がなびいた。

 思い立ったように手に持っていた画面、スマホを放り出すと、そこに映る少女たちよりもふた回りも幼い体躯をぐっと伸ばす。

 

 そして、決意を込めた雄叫びをあげるのだ。

「んー!わたしもまほうしょうじょやる!かっこいーいもん!」


「うるさい。」

 それも、心無い同居人に咎められるのだが。

 寝転がっている隣ででかい声出されたら誰だって不快だろうが。


「また観てたのか、『魔法少女』の動画。」

「うん、これ、いっちばんあたらしいのでねー。みんなすごくつよくなってる!」

 彼女は歓喜をちっとも隠さずに足をバタバタさせる。ほこりが舞ってくしゃみが出た。

 

 まあ、うん。


 すまないが、今までの映像のような子供心をくすぐるモノはこの先あんまり関係ない。


 これは、別に世界を救う話なんかじゃないし。

 魔法が飛び交うとか。科学の粋? なんて、知ったことか。

 ましてや愛とか友情とか、正義とか悪とか、そんなものまったく関係ない。


 そう、これは僕たちの話。

 平凡な僕と、ちょっと変な彼女の、日々の記録である。

 いてっ。


「おい、缶で殴るな。」

「いま、しつれーなことかんがえたでしょ!」

「いえ、まったく。」

「うそつき!」


 あー、少々訂正。

 これは確かに僕たちの話。

 嘘つきな僕が、心優しい彼女へ償うための話。

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