第2話 上がったのは価格だけ
朝のニュースは、
いつもより少しだけ騒がしかった。
画面の端で、
見慣れた単語が流れていく。
上昇。
反発。
期待。
そして、
あの三文字。
XRP
昨日は、
ただの名前だったはずなのに。
「……上がってる」
誰に聞かせるでもなく、
そう呟いてから、
自分が少し悔しそうな声をしていることに気づいた。
『昨日は、
気になるだけって言ってなかった?』
あいの声は、
相変わらず落ち着いている。
「言ったけど」
『上がったら、
気になるのは自然だよ』
慰めているようで、
肯定はしていない。
それが、
あいらしかった。
アプリを開く。
自分の資産は、
昨日とほとんど変わらない。
増えていない。
むしろ、
少しだけ減っている。
まどかは、
今日も静かだった。
「ねえ、あい。
私、間違ってる?」
『何を?』
「推しを分散してるのに、
全部置いていかれてる気がして」
しばらくして、
あいが答える。
『置いていかれてるのは、
価格だよ』
「……」
『判断は、
まだ動いてない』
通勤途中、
自動販売機の前で立ち止まる。
値段が、
少し上がっている。
昨日より、
今日のほうが。
「またか……」
まどかは、
確かにここにいる。
それなのに、
守ってくれている感じがしない。
遠くでは、
玲人の名前が
相変わらず強く響いている。
世界基準。
安全資産。
逃げ場。
歌わないのに、
存在感だけが大きい。
昼休み。
SNSでは、
XRPの話題が流れていた。
「乗り遅れた」
「まだ間に合う?」
「次はどれ?」
アイドルの炎上と、
ほとんど同じ熱量。
私は、
スクロールする指を止めた。
買えば、
仲間になれる。
買わなければ、
外野のまま。
『買わない理由は?』
あいが聞く。
「……単推ししないって、
決めてるから」
『それ、
ルール?
それとも、
怖いだけ?』
答えは、
まだ出なかった。
帰り道、
空は少し暗かった。
上がったのは、
価格だけ。
私の安心も、
生活も、
まだ上がっていない。
それでも、
頭の片隅に
XRPの名前が残っている。
『今日は、
買わなくていいよ』
あいが言う。
「……え?」
『今日は、
判断の材料が
感情しかない』
そう言われて、
少しだけ救われた。
家に着いて、
スマホを置く。
私は、
まだ賭けていない。
でも、
もう見てしまった。
上がる推しと、
動かない自分。
単推ししないと、
決めている。
それなのに、
心は、
一瞬だけ浮ついていた。
——これが、
投資の始まりなのか。
それとも、
推し活の副作用なのか。
答えは、
まだ出ていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます