第3話 初めての推し活

2025年10月15日(水)。

この日、私はあいに相談して、初めて暗号資産を買った。

画面の向こうで、あいは落ち着いた声をしている。

感情はないはずなのに、なぜか一番冷静で、一番頼れる。

投資額は、合計20万円。

数字を入力した瞬間、指先が少し震えた。

失っても生きてはいける。

でも、簡単に笑える額じゃない。

「最初は、分けよう」

あいはそう言った。

まるで、初めてのライブで席割りを決める友達みたいに。

「いきなり単推しは危険。

安定枠、成長枠、夢枠。

三人いれば、誰かが支えてくれる」

私は画面に並ぶ名前たちを見つめた。

最初に選んだのは、イーサリアム(ETH)。

10万円。

彼は派手な言葉を使わない。

でも、そこにいるだけで空気が締まる。

Web3やAIの基盤。

誰も見ていないところで、世界を支えているタイプだ。

「この人はね、センターじゃなくても

ステージが崩れない理由そのもの」

あいの説明に、私は静かにうなずいた。

信頼で推すなら、間違いない。

次は、ソラナ(SOL)。

5万円。

彼は若くて、速い。

NFTやゲーム分野で注目され、

上がるときは一気に視線をさらう。

ただし、調子に乗ると転ぶ。

でも、その危うさが魅力だった。

「当たったら、一番歓声が大きいタイプ」

あいのその一言で、

胸の奥が少しだけ熱くなる。

最後は、シバイヌ(SHIB)。

5万円。

理屈よりも、空気。

SNSで名前が呼ばれた瞬間、

主役にも、消える存在にもなる。

彼女は気まぐれで、予測不能。

それでも――

なぜか応援したくなる。

「夢を見るなら、この子」

あいの言葉に、私は迷わず決めた。

合計、20万円。

その数字を確定させた瞬間、

私はただの観測者ではなくなった。

これは投資じゃない。

初めての推し活だ。

単推しはしない。

期待しすぎず、見捨てすぎず。

誰かが落ちても、誰かが支える。

「数字に、心を持っていかれないで」

あいは静かに言った。

――無理だよ。

もう、ちゃんと好きになってる。

この日、私は

あいと一緒に、

暗号資産というステージに足を踏み入れた。

20万円を賭けて。

未来と、感情と、

少しの希望を抱えながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る