第5話 卒業
廊下は静かだ。
人の配置は、大きく変わっていない。
「なあ」
呼ばれて、私は立ち止まる。
君は少し距離を保ったまま、こちらを見ている。
表情は、困惑に近い。
「……やっぱりさ」
一拍置く。
「キミ、いじめられてないか?」
その問いは、前にも向けられた。
形式も、音も、ほとんど同じだ。
だが、私はもう確認しない。
必要な観測は、すでに終わっている。
「あなたが気にする事はない」
そう返す。
否定でも、肯定でもない。
説明も付け加えない。
君は、一瞬だけ言葉を探す。
「……そうか」
それ以上、踏み込んではこない。
引き下がるというより、留保に近い。
周囲の音が、また動き出す。
人が歩き、配置が流れていく。
会話は、それで終わる。
───
卒業らしい。
生徒達は、生徒でなくなる。
そういう日だと、知る。
列が作られる。
私はそこに含まれている。
含まれているが、
私自身の状態が変化するわけではない。
この場所に、私は封じられている。
それは同じだ。
定められた形式に沿って、式は進行する。
名前が呼ばれ、
動作が発生し、
受け取りが行われる。
順序は守られている。
式は終わる。
涙する者がいる。
声を上げる者がいる。
握手を交わす者がいる。
彼らは、環境の変化に反応しているのだろう。
配置が変わることを、意味として受け取っている。
解散が告げられる。
人の流れが生じ、
列は崩れる。
それだけだ。
誰かがこちらを呼ぶことはない。
声は、届かない。
世界は、滞りなく処理を終えている。
私は、その場にいる。
変わることはない。
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