5話 竜の背中と少女
それから、数日の間に父が指揮をする竜兵部隊でも準備が整えられる。連邦側にいながら、相手に悟られないように、準備を整え、ついに作戦決行の日が訪れる。
「俺の部隊が敵を殲滅するまで、祖国の地は踏めない」
父は居並ぶ竜兵の隊員たちの前で檄を送る。
総勢は1000人程。
これだけの竜と人員が居並ぶと壮観だ。
「我らはが今回為すべきことは勝利のみ。今までどれだけの辛酸を飲まされてきた?」
東部の凍える大地を震わせ、雪を溶かすような父の檄。
「お前たち隣にいた戦友はどこに行った?俺たちは怒るべきなんだ。怒りを憎しみを力に変える。劣悪な悪魔に裁きの雷を与える」
私は演説する父の後ろにいながら、段々目に光と火が灯っていく隊員たちを見つめる。
体を震わせるもの、父の呼びかけに魂のまま叫ぶもの、涙を流すものでさえいる。
父の演説は人を動かし、安心感と力を与えてくれる。これが、カリスマというやつなのだろう。
「臨青いたずらしない。お父さん話してるでしょ。バレたら最悪軍法会議だよ」
私の隣にいる臨青が尻尾で私の背中をなぞってくる。
『ダイジョブ。お父さんの演説迫力凄い。みんなこっち見てない。臨青にはつまらないけど』
頭の中で会話をしながら、ちょっかいを出してくる臨青を叱る。この竜も随分いたずら好きだ。
「空ではあんなにかっこいいのに。何してるの」
まぁそのギャップが可愛いんだけど。なんて思いながら臨青を払いのける。
『ティフォンの臨青の事、好きすぎ。いつも素直ならかわいい」
「うるさい。それ以上変なこと言うなら焼き鳥にするわよ」
思考が共有できるのも考え物だ。聞かれたくないことまで聞かれる。
『ティフォン悪魔。悪魔でもしない。竜大事にして』
抗議してくる声を聞き流す。これ以上恥ずかしい思考を読まれたくはない。
「ほら、そんなことするなら、任務でも確認しようよ」
『むー。なんか、遊ぶんでしょ、部隊で』
「違うよ。遊撃するの。30人位の人たちを率いて、臨機応変に他の部隊を助けたりするの」
『分かってる。冗談、冗談』
「ほんとに分かってる?」と頭の中で、頭を抱える。
臨青は他の竜より賢いから本当に冗談だと思うけど。
「私は士官になったからね。私の判断で戦場に参戦するの。隊長だよ。私、かなりの権力をもらっているの」と少しだけ嬉しさがもれてしまう。
どうやら最年少での士官昇格らしい。それだけ、人材不足になってきているということでもあるんだけど。
「戦場を一変させることもできるし、壊すこともできるの」
『責任重大。ティフォンすごい』
「だから・・・私が冷静じゃなかったらまた空から落としてね」
初陣の時を思い出す。あのときから私はかなり成長した。騎竜の腕だけではなく、指揮官としてのメンタルも備わっている。
その流れで嫌なことも思い出してしまう。今もきた。あの日の女の笑顔が。思い出した瞬間足元が揺らぎ、視界が暗闇に染まる。あの日の失敗の声が聞こえてくる。
「あ、やばい」とそのまま倒れそうになる瞬間。
体が浮遊感に包まれる。倒れたかと思えば、視界が青一色に。
「り、臨青。今、訓示中。動いたら、私たち」と状況を理解する。
この青色は臨青の背中だ。
『大丈夫、終わってる。一番最初に帰ってるだけ』
どれだけの時間幻想に囚われていたんだと考えていたら、再び気持ちの悪い浮遊感が体を襲う。
地面がなくなり、本当に奈落に落ちた方と思うが。数秒でざらざらとした背中がまた私の体を迎えに来る。
「何で私のこと落としたの!今は私の部隊もいるのに。これじゃあ面目が丸つぶれじゃない」
『うーん。ティフォンが言った。冷静じゃなかったら落とす。臨青それしただけ。ティフォンまた悪いこと考えてた』
言われて思い出す。自分がこの事態に陥った理由を。お願いの言葉が、トラウマの引き金になるまぬけ。
「やる前に一言ほしかった。・・・でもありがと。私も緊張してたみたい。たったあんだけのことで落ち込んじゃうなんて。いつもはあんな風じゃないのに」
『そんなこともある。ティフォンの辛さ、臨青も分かる。全部半分こ。だからこれは臨青の分』
慰めの言葉から一転してまた浮遊感に包まれる。だが、今度は臨青が落ちる番らしい。私も一緒に落ちてるんだけど。
「これじゃあ、私だけ二倍じゃん!」
『あ、そうだった。陳謝陳謝』
傍から見たら竜で遊びながら、叫んでいるだけの人だ。部下や父からの視線が怖い。だが、気にしては負けだと、振り返らずに先に進んだ。
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