1話 青色の竜との出会い
建速(たけはや)共和国との戦争が始まり、緊張感が漂うヴァースキ帝国に私、ティフォン・カムイは生まれた。
ヴァースキ帝国の中でも由緒あるカムイ一族。その長女にして跡継ぎである私は敏く、強くあるように育てられた。
圧倒的国力と、戦力を持つ帝国の伝統的切り札である竜兵。その当代最強の称号である【竜神の巫女】の座を私たち一族は数百年にわたり守り続けてきた。
この国を平定した神話に由来する称号。私はその次代として期待されていた。
そして、私が10歳になったとき、私の生涯の相棒にして、唯一の理解者である臨青と出会う。
「ティフォン、お前も10歳になった。お前は俺が期待した通り、強く、そして美しく成長した。いや、期待以上だな。お前なら歴代でも最高の巫女になれるだろう」
商人でも、貴族でもある父。だが、それに似つかわしくない豪快で痛快な笑顔で私を褒めた。
この父は当代の竜神の巫女である。
「俺ほど活かした男に巫女はないだろう」といいながらも、刀の一振りで世界を震え上がらせた英雄だ。
相竜と共に空を駆け、共和国の本隊を一人で相手にして、生還した伝説。父の戦場での話を聞きながら、私はその何人も寄せ付けない強さに憧れた。
「お前も俺みたいになりたいんだろ?俺もこの称号なんて早くお前に継がせたいんだ。巫女様、巫女様って、俺の柄じゃねぇ。俺は自由でいたい」
「名前の縛られる男じゃないんだよ」と、私に愚痴を零す父。だが、今日の私はそんな言葉も聞かず、上の空。
「なんだ、いつもはお淑やかに振舞っているお前もわくわくしてんなぁ。竜兵みんなが通る道だ。グダグダ言っても仕方ない」私の頭をわしわしと撫でてきながら、父は立ち上がる。
「今から竜選の儀を行う。お前の相棒がどんなもんか俺に見せてみろ」
父の声に期待感が最高潮に達する。感情制御の訓練もしているが今日ばかりは仕方がない。竜兵にとって家族よりも深く結ばれる、半身のような存在を見つけにいくのだ。期待しない方が難しい。
「それじゃあ行くか」と豪快に笑う父の言葉と共に、書斎の壁が大破する。急な大きい音に心拍数が上がり、体がびくっと反応してしまう。
土煙の奥からは父の愛竜である聖華が佇んでいる。その、鋭い爪をもった足で、壁を叩いたのだ。
「ほら、聖華に乗れ。相棒候補はたくさん用意しているから期待しとけ」と私の小さい体を持ち上げて、聖華の背中に乗せる。律儀に子供用の蔵を用意してくれている。
「だからって壁を壊さないで。いつも言っているでしょ!」と父を𠮟りつける。私を驚かせるためだけに、父はこんなことをしてくるのだ。
「お手伝いさんたちあの後大変なんだから。私へのサプライズの度に聖華に無茶させないでよ」
「お前、ますます母さんに似てきやがったな」
「じゃあ、いいことじゃん」
父との口論も、期待感からかいつもよりも声が上ずってしまう。まぁ、壁の修復をしたら給料が倍になるからってお手伝いさんは喜んでいるんだけど。
「じゃあ、行くか。しっかり俺の腰につかまっとけよ。口は閉じて、じっとしとくんだ」
準備を整えて、窓を突き破り、空に飛びだす。
空気が乾いてきた秋の空を楽しみながら飛んでいくと、すぐに竜兵の訓練場に到着する。
「どうだ。結構壮観だろ!お前のために世界中から竜を集めてきた」父は辺り一面にいる竜を指さし、私に見せつけるように語り掛ける。
「どれも一級品に凄い奴らだが、選ぶのはお前だ。考えるなよ?ピンときた奴がお前の相棒だ」
目の前には美しい深紅の鱗に身を纏わせた竜たちが並んでいる。
家ほどの大きさのある竜たちの動きの一つ一つに圧巻されながらも、私の視線は一匹の竜に注がれていた。
「なんだもう決めたのか。雪山にいたって聞いて、物珍しくて連れてきたやつだったが、そいつにするか。戦場で目立つぞ」
嬉しそうに笑う父の声も今の私には届かない。
空よりも青く、他の竜よりも優雅にたたずむ青竜に目を奪われていた。
青竜も同じだったようだ。こちらと目を合わせながら身じろぎ一つしない。
悪魔のような角に、ナイフのように鋭い爪。巨大な魔素を身にまとう青龍は生物の頂点としての風格を纏わせていた。
私は数分、青龍を見つめていた。目線を外そうとした、次の瞬間。青竜の声が聞こえた。ただそれだけではなく、青竜の感情、感覚すべてが伝わってきた。頭が溺れそうになる感覚だったが、それがどこか心地よかった。お互いの心を結んだ実感が、私を多幸感に包む。
「相棒ってこんな風に結ばれるんだね。私、あの子の考えてることも、これまでの人生も、今の感情もなにもかも分かる」私の頭には青龍の声も響いてくる。自己紹介をして、お互いのことを話していく。
「私、あの子にする。いや、あの子がいい。あの子しかいないよ」
私は欲しいものが見つかった子供と同じように青龍にくぎ付けになっていた。これが、いわゆる一目ぼれというやつなのか。
「感覚全てがわかるって、それはお前。普通はそんなことはありえないはずだが、」
私の言葉に若干困惑する父。だが、少し考えるように顎に手を当ててから、また笑いだす。
「その竜の言葉が分かるのか」
「うん」と当然のように答える。なぜ聞かれているのか分からない。
「みんなこうじゃないの?会話できないならどうやってこんな大きい竜に乗せてもらえるの?」
「普通は訓練をしてやりたいことを伝えていくんだ。俺も聖華とは話せない」
「そうなの」これは驚きだ。私はてっきりみんな話したりしてるのかと。それくらい父と聖華は心が通じ合って見えたから。
「あぁ。今まででそんなこと出来たのは初代の竜神の巫女だけだよ」と父は嬉しそうに話す。
「お前も読んだんだろう?」
「うん」と返事をしながら、私は初代の伝説についての物語の序章を思い出していた。
―その者、竜との契りを交わすとき、情意投合万象の理を越し、竜の語を心得る
「それは初代だけだ。これはほんとに俺以上の天才かもな。だが、まだ甘い。俺も昔はな・・・」
その後の父が語る自分の伝説は聞き流した。ただ今は僅かな時間でもこの竜と結ばれる感覚に溺れていたかったのだ。父には悪いけど。
「今日からよろしくね。私ティフォン、10歳」
『うん、よろしく。私、名前はない』と頭の中に青龍の声が響いてくる。
「名前ないんだ。それじゃあ、私がつけてあげる。名前たくさん考えてきたけど、その素敵な鱗の青色にちなんで、臨青(りんせい)ちゃんにしようかな。私とお母さんで考えたの。世界に平和が来ますようにって願って」
『りんせい、いい響き。それじゃあ私はりんせい。これからよろしく』
「うん、これからお友達だね」と私は嬉しくて臨青の顔に触れようとぴょんぴょんとジャンプをする。少しでも近くに臨青の存在を感じたい。
「まったく、そんなに最初から仲がいい竜兵なんて初めて聞いたな」
父が後ろでガハガハと笑っている。今日は私の人生で最高の日に違いない。臨青と仲良く遊びすぎて、臨青の新しいお家で眠って怒られたのは明日のお話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます