死せるアラサー、生ける後輩を走らす
バネ屋
#01 土曜の朝チュン
尿意を催して目が覚めると、アルコールの臭いと、いつもとは違う布団の臭いがする。
昨晩は、年が明けて最初の金曜だからと、上司に連れられて課のメンバーで飲んで、そのあとは、一緒に参加していた先輩に「もう少し飲もう」って誘われ二人でハシゴして、それでどうしたんだっけ・・・って、オレ裸???
うおっ!?もう一人いる!?なんで!?誰だよ!?
驚いて体を起こすと掛け布団がめくれて、窓から差し込む朝日に女性の裸体が照らされた。
「んん、さむいよ・・・」
そう言って裸の女性はめくれた掛け布団を引っ張り包まると、そのまま寝息を立て始めた。
えええ!?先輩!?
少しだけ見えた先輩の豊満なバストとくびれた腰からの綺麗なヒップが目に焼き付いた。
やっぱ、胸でけーな。
いやいやいや!おっぱい見て喜んでる場合じゃないよ!
二人とも裸で一緒に寝てたって、どう考えても、やっちゃってるじゃん!
記憶にねーぞ・・・
室内を見渡すと、特に特徴の無い普通の部屋で、床には俺と先輩のものだと思われるスーツや下着などが脱ぎ散らかしたままだった。
ここ、先輩の部屋か?やっぱり、なんにも憶えてないな。酒飲んで記憶無くすなんて、学生時代以来だな。どんだけ飲んだんだ俺は。
ベッドから降りて、自分のボクサーパンツと肌着を着ると、限界だったのでトイレを借りることにした。
小用を済ませて、ついでに洗面所で顔も洗うと少し冷静になれた気がしたが、昨夜のことは思い出せないまま部屋に戻ると、ベッドの横にあるゴミ箱が視界に入った。
中を覗くと、丸めたティッシュがいくつも入っている。直接触るのはイヤなので、ゴミ箱ごと手に持ち、顔を近づけて臭いを嗅ぐと、くっさ!めっちゃイカ臭い!
やっぱ、やってるじゃん!っていうか、ゴムは!?
少しでも精子が付かないように、指先だけでティッシュを避けて他のゴミを確認したが、コンドームらしきゴミは見つからなかった。
あかん・・・。
先輩と、避妊なしでやっちまった。
先輩って彼氏いたよな・・・
美人だし服の上からでも分かるほど胸が大きくてエロイ体してるから、一度くらいはエッチしてみたいとかおっぱい揉んでみたいとは考えたことがあるけど、まさか本当にやっちまうとは思わないし、しかも酔っ払って避妊なしで、おまけに全然憶えてないとか、もったい無い、じゃなくて、デンジャラスすぎるだろ、この状況。
とりあえず寒いから残りの服を着て、スーツの胸ポケットに入れていたスマホで確認すると、AM8時過ぎ。
さて、どうしたものか・・・
今、この場から逃げたとしても、無かったことにするのは無理だろう。それならいっそのこと、酔いが醒めた今もう一回やって、セフレにでも、って、それは絶対に悪手だ。ドロドロの地獄しか見えない。
やはり、謝り倒して、二人だけの秘密として忘れるのが一番か。
先輩、会社だと優しいもんな。誠心誠意謝れば「お互い大人なんだし、忘れましょ」とか言って、許してくれるんじゃないかな。
そう結論に至り、勝手にリモコンを操作して暖房を入れてから脱ぎ散らかした先輩の服やパンストを退かして、床に正座で先輩が起きるのを待つことにした。
谷崎美紀。3つ上の先輩で、今年28歳と聞いた憶えがある。
会社では、デスクが隣だから仕事以外での会話も多いほうだが、社内では3本の指に入る美形だと思う。ただ、すでに彼氏がいることは本人が公言しているので、誰も手を出そうとはしない。
ちなみに、他の同僚たちは『谷崎さん』と呼んでいるが、俺は『先輩』と呼んでいる。入社当時の右も左も分からない頃に、よく面倒を見てくれて、その時からずっとそう呼んでいた。
そんな関係もあって、恋愛がらみの相談をしたことも何度かあった。
確か昨夜のバーでも、「俺も、もう25なのに彼女なしで仕事だけとか、夢も希望もないっす」とか愚痴った気がする。
ん?待てよ?
あの時、先輩も何か重要なことを言ってた気がするな。
なんだっけな・・・仕事のことじゃなくて、彼氏の話だっけ。それとも家族だか友達の話だっけ・・・でもそんな話なら、俺にとってはどうでもいい話だし、重要なことだとは思えないな。なら、借金とか結婚とかの話か?でも、どちらも先輩が俺に相談とかするとは思えないな。うーん・・・ダメだ。思い出せねぇ。
正座したままアレコレ考えていたが、一時間もすると徐々に気持ちは開き直り、脳内で責任逃れを始めていた。
だいたいさ、部屋に連れ込んでる時点で先輩も同罪ってことじゃん。
むしろ、連れ込まれた俺よりも、彼氏いるのに連れ込んでる先輩の責任じゃね?
先輩で年上なんだし、後輩で年下の俺よりも自制するべきだよな。
っていうか、実は結構貞操観念低いのか?会社じゃ、そういう噂は一切聞いたことないけど、彼氏がいても平気で喰いまくってるとか?さすがにそうは見えないけど、現実に俺は先輩の部屋でやっちゃった事実があるからな。
さらに30分ほどグチグチ考えていると、ようやく先輩は起きた。
「んん・・・あさ?」
その瞬間、先ほどまでのグチグチ責任逃れに終始していた思考はどこかに吹き飛び、床に頭突きする勢いで頭を下げて謝罪を始めた。
「先輩!昨日のことはすみませんでした!無理矢理とかそんなつもりは無くて!酔った勢いでして!」
酔っていたせいでなに一つ憶えてないが、とりあえず、自分が悪いってことで誠心誠意謝る作戦だ。
「え!?桃田くん、起きてたの!?って、なに言ってるの!?」
「え!?」
謝ったらダメだったの!?
「というか、なんで正座なの?いつからそこで正座してたの?」
そう問われて顔を上げると、先輩は掛け布団を羽織って体を隠したままベッドの上で座っていた。
「いや、その、8時くらいに目が覚めて、なんか裸だったんで、やっちまったなぁって思って、先輩に申し訳ないっていうか、彼氏さんに殺されるんじゃねーかって考えたら、ドロドロするのも怖いし、とにかく謝ろうと」
「え!?1時間以上もずっと正座してたの!?彼氏って・・・もしかして、昨日のこと、憶えてないの?」
「それはその・・・はい。なんでここに居るのかも、どうして裸だったのかも、全く憶えていないっす」
「ひっど!私、すっごく頑張ったのに!あんた、最低のクソ野郎じゃん!」
「えええ!?」
すでに、俺、詰んでた!?
「クリスマスも年末年始も寂しくて、でも桃田くんが・・・ううう」
激昂したと思ったら、今度は泣きだした。
会社では、どちらかというと温厚なタイプだし、飲みに行っても悪酔いしたところを見たことが無いので、こんなにも感情をむき出しにするのを見るのは初めてだ。
「ちょ、ちょっと先輩、泣くようなこと、俺、したんですか?」
「したんですか?じゃないわよ!女の気持ちを弄んで、責任とってよ!」
「えええ!?責任!?」
っていうか、泣いてねーじゃん!ウソ泣きかよ!
しかし、怒った顔がめちゃくちゃ怖いから、そんなツッコミ入れる度胸はない。
「さっき謝ってたのだって、ホントは自分がなに言ったか憶えていないくせに、『とりあえず謝っておけばいいだろう』とか考えていたんでしょ!」
図星だけど、そんなに怒られても、どうしてこんなことになってるのか自分でも分かんないんだから、責任とか言われてもさっぱり分からねーし、足が痺れてつらいし、家に帰ってシャワー浴びて、寝直したい。こんなことになるなら、起きるの待たずに寝ているあいだにさっさと帰るべきだった。
早く、ウチに帰りてぇ。
次の更新予定
死せるアラサー、生ける後輩を走らす バネ屋 @baneya0513
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