第2話 魔力

 今日も今日とて少々劣悪な環境で生きております。どうも、クルトです。転生してから三ヶ月くらい経ったと思う。予想だけれども。

 俺が赤ん坊のまま目が覚めてから、ずっと考えていたがようやく考えが纏まってきた。


 俺はどうやら、日本では無いところに転生したらしい。いや、まあわかっていたことだが。

 ぶっちゃけ、日本に帰りたいのでどうにかしなければいけない。


 問題はどうやったら帰れるのか、まったくわからないということだ。帰りたいのはやまやまだが、どうやって帰るのか。検討が付かないうちはどうしようもない。


 どうにかしなければいけないが、今の赤ん坊の俺が何かできるわけもない。俺は一旦諦めて、寝て食べてを繰り返して過ごしていた。

 今は母さんが外に洗濯をしに行っていて、部屋に一人の状態だった。


 少し前にミルクを貰ったのだが、量が少ないためもう腹が減っている。

 空腹感を感じながらも、思考する。


 ミルクが足りないのはほぼ毎回だ。そのせいでずっと不快感が纏わり付いている状況だ。赤ん坊には過酷すぎる気がする。母さんが取れている食事の量が少ないのだろうか。


 正直、自分で食べ物を取りに行きたいくらいだが、赤ん坊の状態で動けるわけもない。

 この籠の中から何かができるわけでもないし、今はただ耐えることしかできないのが悔しいところだ。


 まあそれは置いておいて、朗報もある。

 俺が転生してからしばらく経ったが、その間魔法らしきものを見る機会が何度もあった。


 母さんは何度も魔法を使っても全く疲れる様子がなく、度々魔法を見せてくれた。

 その際にさりげなく杖に触れてみると、何か身体の中で反応するものがあった。


 母さんは「めっ! 危ないでしょ!」と怒っていたが、赤子だから知らないふりをした。許してくれ。

 ともかく、この身体の中に何か存在している感覚。これが魔力なのでは、と俺は考えた。


 手応えを得た後しばらく実験をしていたのだが、まずこの魔力というのは外に出せる。

 その際には何も現象は起きない。ただ外に出すだけだ。


 出すのはゆっくりでも、早くでもどちらでも行えるのだが、痛みが伴うくらいに早く放出するのを繰り返していると、どんどん苦しくなって、いつの間にか気絶している。


 そして、起きたら身体の中にある魔力の量が増えていた。

 これって……ネット小説で見た増やし方だ!


 進○ゼミが困惑するくらいテンプレちっくな増やし方だが、おかしなことではないだろう。筋肉も同じで負荷をかければ、反発して丈夫になるのは生命においてはよくあることだと思うし。


 とにかく、赤ん坊の俺は普段死ぬほど暇なので、起きている間はずっと魔力で遊んでいた。

 そしたら当初の魔力からめちゃくちゃ増えている気がする。


 悪くない増加量なのではないだろうか。いつか魔法を使うときにかなり余裕があるくらいにはしたいな。

 そう思いながら、帰ってきた母さんからお乳を貰っていると、遠くからトントンと音がした。


「あら、誰かしら」


 母さんが俺を籠において、部屋を出て行く。少しすると、ドアを開くような音と一緒に母さんが驚いた声を出した。


「まあ、シャロン来てくれたのね!」


 誰かが遊びに来たらしい。シャロンというのか。母さんの友達か?

 二人はすぐにこちらに向かって歩いてくる。


「すまない。ずいぶん久しぶりになってしまった」


 女性の声で、知性を感じさせるような声音だった。


「いいのよ。そっちは私なんかよりよっぽど忙しいんだから」

「そうは言ってもあいつがいなくなってからは一人だろう? あいつの妻だから周りから目を掛けて貰っていただろうけど、いなくなったらどうなるか心配だったんだ」

「今もみんな優しくしてくれてるわ」

「それは君が周りに貢献しているからだろうね。何もしないやつにはこの場所は厳しいから」

「もう。そんなことより、息子の顔を見てあげて」


 二人が部屋に入ってきて、籠の前に立つ。シャロンと呼ばれた女性が俺を覗き込んだ。

 長い銀髪と、綺麗な服の上から白衣を着た美人な女性だった。


 白衣が真っ白だ。母さんの服装とは全く違う。どういう関係なのだろうか。 

 シャロンは俺の顔を覗き込んだまま微笑んだ。


「へぇ、これは……。上手く二人の要素が揃ってそうだ。将来優秀になるよ。魔力量も……え?」


 急にシャロンは異様なものを見たかのように顔を強ばらせた。

 え、なに? 何かやばい感じ?


 焦る俺だが、シャロンはじっくりと俺の身体を透視するように眺めていく。

 足先まで見た後、シャロンはすぐに母さんの方に振り向いた。


「なんてこった。この子は凄いよ! 魔力量が桁違いだ! 赤子とは思えない!」


 興奮したようにシャロンが言うと、母さんも俺の方に近寄ってくる。そのまま俺の顔をなでながら首を傾げた。


「そこまでなの? 赤子にしてはちょっと多いとかじゃなくて?」

「アナスタシア……君は座学は全くのダメだったもんね。実技全ぶりで、魔力感知のやり方も適当だったし」


 シャロンが呆れたように言う。

 母さんは不満げ頬を膨らませた。


「感知できればなんでもいいじゃない。魔法はズバッと切ればいいんだし」


 母さんはそう言って剣で何かを斬る振りをした。


「いや、それは普通の人はできないし、戦闘が前提じゃないか……」


 シャロンはため息を漏らしていたが、咳払いをしてから人差し指を立てた。


「いいかい、この子の魔力量は言ってしまえば今の君よりも少し多いんだ。そして私より少し少ないくらい。ほぼ匹敵している」

「それは! ……多いのかしら?」

「かぁー! これだから感覚派ってやつは!」


 シャロンは首を傾げる母さんに声を荒げた。


「簡単に言えば、今の宮廷魔法士と同じレベルの魔力量を持っていて、そこからさらに成長する可能性が高いってことさ!」

「あら! 凄いじゃない!」


 母さんが俺を嬉しそうに見る。宮廷魔導師っていうのがどれくらいかわからないが……まじか。俺、すごかったんか。

 つい、俺がにまにましてしまうと、母さんが「この子笑ったわ!」となおさら嬉しそうにする。


「まあ、細かいことは置いておくとして、この魔力量なら将来は安定だね。なんなら私の弟子にしてもいいくらいだ」


 それを聞いて母さんは目を見開いた。


「シャロンが弟子を取るなんて言いだすのは、本当に珍しいわね」

「それくらい優秀そうだからね。それに……この子には何か縁がある気がするんだ」


 シャロンが俺の頬をなでる。美人になでられるのは悪くない気分だ。


「この子、名前は?」

「クルトよ」

「クルト、ね。君は大きくなったら私の弟子だ」

「もう、先に決めないでよ」


 笑い合うシャロンと母さん。仲いいなぁ。座学とか言ってたし元同級生か何かなのかな。


「そうだ。気になってたんだが、君もクルトもかなり痩せているね。ちゃんと食べてるのかい?」

「うーん、ちゃんととは言えないかも。計画のこともあるけど、少し離れに住んでる――さんから――」


 二人の間で俺の知らない話が続く。魔法のことならならまだしも、これでは話の検討が付かない。ご飯も貰って眠くなってきたし。

 窓から日差しも入ってきて暖かくなってきた。お昼寝には良い時間と陽気だ。


 ウトウトとしていると、母さんが毛布を掛けてくれる。

 そのまま部屋の中で談笑する二人の声を耳にしながら、俺は眠気のままに意識を手放した。

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