神殺しの本懐 〜転生した天才児は『根源』を操り、隔離された世界で女王を討つ〜
ゆーとぴあ
第一章 外街編
第1話 転生
気が付いたときには、すでに何かが違う気がしていた。意識は薄く覚醒していて、目の前は真っ暗だった。いや、これは目の前が真っ暗なのではなく、ただ単に目が閉じているだけかもしれない。
また少し意識が浮上する。腹の辺りに刺すような空腹感を感じた。まぶたが重くて、身体もだるい。重石のような眠気があって苦しい。何でこんなに調子が悪いんだろうか。訳がわからない。
必死に眠気を振り切って無理矢理眼を開く。視界がぼやけていたが、必死に焦点を合わせる。目に少し光が入ってきた。
どこからか明かりが差し込んでいるようで、少し眩しい。片側から涼しい風を感じた。頬に当たる風に少し気分が良くなると、視界も明瞭になってきた。
俺は上を向いているようだった。家の中にいたようで、目の前には天井がある。木造の天井で木々は上手に組まれていたが、薄黒く汚れていて年期を感じる。雰囲気からして全く身に覚えのない光景だった。強いて言えば、昔、家族で数回だけ泊まったログハウスのような天井だった。どうみても俺の部屋の天井じゃない。
辺りを見回すと、棚や皿、手籠が目についた。どれもあまり出来が良いとは言えない造形で、現代っ子の俺にはどうも違和感があった。何というか、何世紀も前の代物のようだ。
そこで気づいた。辺りを見ている間にも俺の視界を塞いでいた、何か大きなものがある。よく見ると、植物性の素材で編まれた籠の持ち手のようだ。それが俺の視界の半分を横切るように伸びている。視界を塞ぐサイズって。とんでもないサイズだな、おい。
普通に考えて本当にそんなサイズの籠を作るやつがいるのか? しかも、なんでその中に俺がいるんだ。
籠の持ち手に手を伸ばそうとしたら、手が動かない。手足に重りが付いたかのようだ。自分では動かせる気がしないし、実際に動く様子が無い。
何というか、筋力が足りていない感覚がある。なんで? こちとら男子高校生だぞ。そんなこと起こるわけないだろ。
……転生でもしたのだろうか。
いやいや、そんなことあってたまるか。ここは現実世界だぞ。そんなことが起きるわけが……。
俺はしばらく悩んでいたが、状況は一向に変わらない。暖かい日差しが窓から入り込んでいて、むしろ眠気を誘われる。
今俺が寝ているのはどうやらベッドのようで、なおさらだった。今なら一瞬で寝落ちするんじゃないだろうか。
ついウトウトしてしまったが、すぐにはっと思った。このまま意識を失ったらどうなるのだろうか。このまま二度と起きないのだろうか。
俺は何か無性に怖くなり、何かしようと思って、試しに声を出してみた。
「ああうぁ?」
とても呂律が回っているとはお世辞にも言えない声が出た。例えるなら、幼児特有の謎言語だ。どうやら俺は身体が小さくなったのではなく、本当に赤ちゃんになってしまったらしい。
いや、俺が赤ちゃんになったのか。それとも、俺が赤ちゃんに戻ったのか。それとも……うーん、えぇ……?
俺は無限に広がりそうな数多の可能性を考えて、途中で諦めた。全ての道は赤ちゃんに通じるのだ。考えても仕方ないね、うん。
そう思って俺は再度辺りを見回す。何か今の状況を考えるためのヒントがないだろうか。
そう思って横を見たら、側でとても美しい金髪美人が下を向いて何かを洗っていた。
え……誰? さっきはいなかった気がするんだけど……?
「クルト、顔を拭きましょうね」
その女性はこちらを見ると、ニコニコしながら俺の顔をタオルで拭いてくれた。ああ……冷たくて気持ちがいい……あ、鼻水ついちゃった、すいません。
「あらあら、洗ってこなくちゃ」
目の前の女性はそう言うと、タオルを持って部屋から出て行った。
「……」
……クルトというのは、俺の名前か?
名前らしき何かを呼んでいるということは俺が誰だか知っているということだろう。
でも俺の名前は理人であって、クルトではない。
誰の母親だろうか。それとも、お手伝いさんか。
でも、俺の関係者なのは間違いないし……本当に俺の母親なのか?
いや、でもそれだと赤ちゃんに戻ったとかではなく、全くの別人として生まれ変わったってことになる。
女性が帰ってこないので、その間に俺は考える。
一番意味がわからないのは転生していることだ。夜は普通に自室で寝たはずなのに、何でこんなところにいる?
寝た後のことが思い出せない。いや、寝ていたのだから当たり前なのだが、それにしても何故転生しているんだ。
「ふえ」
ちょ、なんか急に怖くなってきた。これもうホラーでしょ。なんでこんなところで、赤子になってんの?
俺の人生は今度一体どうなるんだ……。
なんか泣きたくなってきた。とはいえ、俺は赤子ではない。これくらいで泣くわけがないだろうと思ったのだが……止まりそうにもない。
「うんぎゃあああぁぁ!!!!」
ダメだ。全然我慢が効かない。赤子だからか? 不安が勝手に増大して、感情の制御が全くできない。
俺が恥も外聞も無く泣きまくっていると、タオルを洗いに行っていた女性が帰ってきた。
「あらあら、どうしたのかしら? お母さんはここですよ」
女性は俺の側に近寄ると、俺を持ち上げた。身体を揺らしてあやしてくれる。
母親が側にいる。それは幼児にとってかなり大きなことのようだ。安心感が半端ない。ホッとして力が抜けた。それと共に恐怖感も和らぐ。
女性はしばらくの間俺をあやしてくれていたが、ふと表情を変えた。
「そうだ。面白いもの見せてあげますね」
急に思いついたように俺をかごの中に降ろす。
腰の辺りから杖を取り出した女性は、それを俺の頭上に掲げた。
俺が興味深く眺めていると、杖の先からキラキラとした光が出て、踊るように動き始めた。
はあ!? 何これめっちゃ綺麗なんだけど!?
女性が出した光は動物の形を取ったり、妖精のように羽を生やしたりしていた。
熊のような丸っこい生物が二足歩行しながら歩き、その後ろを兎が跳ねながらついていく。その列には他の動物も続き、ぐるぐると回っていた。その周囲では、トカゲらしきシルエットが炎らしき影を吹きながら、ステージを盛り上げ、中心では数匹の妖精が踊る。
いろいろなバリエーションがあってめちゃくちゃ興味深い。
俺が目を輝かせて見つめていると、「はい、今日はこれくらいにしておきましょうね」と言って、母は光を消した。もう少し見たかったな……。
「あら、もうこんな時間。ご飯の準備しなきゃ」
俺が恥を捨てて必殺のうるうるお目々で母さんを見ていると、母さんはさっさと別の部屋に向かってしまった。くそう。
静かな部屋に一人になってしまった。さっきの光景を片隅に、頭の中で情報を整理していると眠くなってきた。丁度良いし少し寝るか。おやすみ……。
…………。
「んぎゃあぁぁ!!!!」
はっ、気づいたときには俺は大声で泣いていた。しかも、かなりの空腹感に襲われている。うっ、死にそう。
「はいはい、ミルクですよ」
いつの間にか側にいた母さんが俺を抱え、胸を出す。おっと、これはこれは……。なんて女性の胸に注目する暇もなく、俺は空腹を満たすために胸を吸う。
勢いよく吸い付き、ぐいぐい飲んでいると、お腹が満たされた辺りでお乳が出てこなくなった。
母さんはお乳が出なくなったことに気づいたのか、俺を籠において、側に置いてあった自分の食事を取り始めた。しかし、量がちょっと少ない。
おそらく、成人女性が食べる量としては、足りていないだろう。
食事は少ない。部屋は綺麗とは言えない。服もそんなに綺麗とは言いがたい。今までの状況を顧みるに父親もいなさそう……。
ここまで苦しい状況を考えると、もしかして俺の家って恵まれない家庭ってやつだろうか。
え、マジ? 普通、恵まれた貴族とか王族スタートじゃないの? 転生って。
貧困家庭は普通にハードすぎない?
俺が戦々恐々としていると、耳元でカサカサと音がしたと思ったらブウゥゥンと音がして大きなGが俺の顔に乗った。
「ぅぎゃああぁぁぁ!!!」
顔にGが乗ったぁぁぁ! 汚いってレベルじゃねぇぞ! 取ってくれ母上! そして消毒してくれ消毒!
俺が再び号泣し始めると、Gが慌てたように飛び去った。
ブウゥゥンと羽音を立てて部屋の端に飛んでいくGだが母上が即座に手を振ると、手の先から炎の玉が飛んでいき、Gに直撃した。
「……」
俺は驚いて口をつぐむ。
炎に焼かれながら落ちていくG。ぼてっと地面に落ちる様は哀れだ……が、それよりもあれって……もしかして魔法では?
もしかして杖から出してくれた光も同じで、魔法なのかも。炎を出していたから、同じものなら攻撃もできるようだ。マジでよくあるファンタジーの世界じゃんこれ。
俺がウキウキし始めていると、母さんが食事を終える。
そして食器を持ってどこかに行ってしまった。洗いに行ったのだろうか。
魔法が存在しそうなのは素晴らしいが、やはりこのGが普通に出る汚さは驚愕だ。いや、日本でも普通に出る場所は出るのだろうけど。まあでも、一つ確定した。ここは北海道では無いらしい。
この点は大きなマイナスポイントだな。普通に環境が劣悪だ。父親も未だに姿を見せないし。いや、もしかして、父親がいないのか?
せっかく転生したんだから、楽できるかと思ったんだが、どうやら違うようだ。
まあ魔法使えるならいいか。日本と違ってファンタジー世界なら好き勝手できるかもしれない。少し楽しみだな。
とりあえず、今は幼児として寝ることに集中することにしよう。
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初めまして。一人でしこしこ書いていましたが、モチベと力が尽きたので初投稿です。
なろうにも上げてます。
書けているところまで毎日投稿です。
それ以降は不定期になります汗
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