雨の日の女神

ゆる弥

奇跡の出会い

 曇天の空は、今の僕の心を表しているようで余計落ち込んでしまう。


 出て来たビルを眺めると降り始めた雨が反射してキラキラと輝いて見えた。この会社の面接にはきっと落ちたことだろう。


 せっかく進んだ二次面接だったのに。まぁ、一次面接も笑顔が素敵でしたっていうよくわからない批評をされていたし、仕方ないんだけど。


 だけど、やらかしたよなぁ。車の電気関係の仕事をしてる会社だっていうのに、電気工事士の勉強をしてるって履歴書に書いちゃってたんだもんな。


 前回の電気関係会社の履歴書をコピペしたもんだからそんなことになったんだろう。自分の落ち度だからしかたないけど、「これ、関係ないよね?」って言われて反論できなかったわぁ。


「はぁぁ。最悪だ」


 灰色の雲を見つめながら降ってくる雨粒を一身に受け止める。

 今の僕の気持ちは濡れてもどうでもいい気持ちになっていた。

 なんなら、水たまりに飛び込みたいくらいだ。


 なんで面接官ってあんなに威圧的なんだろう?

 もう少し友好的な人がいてもよくないか?

 威圧的だと思うならその会社は辞めた方がいいのだろうか?


 色んなことが頭を巡り。

 目を瞑っていると、どれだけ時間が過ぎ去ったのかもわからなかった。


 雨粒が急に止んだ。


 ゆっくりと目を開けると、真っ黒。


「えっ⁉」


 大きい声が出てしまった。

 咄嗟に周りを確認すると、驚いて目を見開いているリクルートスーツをきた女性だった。


 同じように名節を受けに来たのだろうか。それにしても、綺麗な顔立ち。それに、綺麗な艶のある長い黒い髪だ。後ろで束ねているけど、腰上くらいまであるだろうか。


「あっ、あの、濡れていたから大丈夫かなって……」


「あぁ。すみません。ありがとうございます。いやぁ。ちょっと絶望してまして……」


 照れくさくて、頭を掻いて誤魔化してしまった。カッコ悪いところを見られてしまったなぁ。


「もしかして、面接ダメでした?」


「……はい。ダメでした。履歴書の時点でアウトで、やらかしたぁって感じで……」


「実は、私もダメでした。みてください」


 下を向いてを見せて言った。

 最初、頭がバグったかと思った。

 どういうこと?

 どうして、スニーカー?


「面接に、スニーカー履いてきちゃいました……」


「ぷっ! はははははっ!」


「むう。笑いましたねぇ!」


 頬を膨らませたその女性は可愛くて。

 なんだか身近に感じたのだった。


「そのスニーカー、限定物ですよね? 死下kickスっていうゲームの!」


「えっ? 知ってます? 結構マイナーだと思うけど……」


「僕も好きなんですよ。応募したけど、当たらなかったんです。いいなぁ。あの決まり文句がたまらないですよね!」


 ゲームの映像が流れて来る。

 敵を倒すとき、決め台詞が流れるのだ。


「「きさまらを、死の下に……kickスる!」」


 二人で言ったセリフが被った。

 その時の爽快感と言ったらなかった。

 気が合いそうだと、直感で思った。


「「アハハハハッ!」」


 二人で笑いあった時間が心が温まる時間だった。

  

「元気になってよかった! じゃあ、私はこれで!」


 去って行く後ろ姿が目に焼き付いて離れなかった。


 

◇◆◇

 

 

 それから十年経った。

 

 十年いた会社はパワハラのオンパレードだった。強制的なサービス残業、怒鳴り散らされるわ、顎で使われるわ半端じゃなかった。よく十年もいたなと思う。


 いざ転職となると、甘いものではない。

 今の気分は絶望的だ。

 今の面接する前の会社への志望動機がそのまま記載されていて、やっちまったなぁって感じだった。


 こういう所は十年経っても変わんないのかぁ。


 空をみれば、曇天から涙が零れ落ちて来るところだった。その涙を一身に受け止める。手を開いて全身で受け止める。


 結婚もできないし。俺なんてこの世に必要なのだろうか。


 パタリと涙が止まった。

 目を少し開くと真っ黒だった。

 デジャブを感じて後ろを振り返る。


 今も忘れられない。少し大人びている十年前の時と同じ女性が立っていた。


「あっ、あの、濡れていたから大丈夫かなって……」


「あぁ。すみません。ありがとうございます。いやぁ。ちょっと絶望してまして……」


 そう口にして頭を掻くと、女性は目を見開いて口を抑えた。


「もしかして、十年前にも会いました?」


「えっ? 覚えてました? 同じように、傘をさして頂いました。さすがに、スニーカーじゃないですね」


 バリッとしたスーツに身を包み、ヒールのある靴を履いている女性には失礼だったかもしれないな。


「ぷっ! そうですね。今は、だいぶ落ち着きました……」


「そうですねぇ。僕は、情けないことに一社目の会社を退職して、次を見つけようとしているんです。ですが、また履歴書でアウトォって感じで……」


 口に手を当ててクスクスと笑う女性は魅力的だった。でも、自分が情けなさすぎて顔が熱を持つのが分かる。自分が嫌になる。


「すみません。こんな話聞いても仕方ないですよ。では、僕はこれで……」


 僕なんかがこんな綺麗な人と話していてはダメなんだ。

 後ろを振り返り歩き出す。


「きさまらを、死の下に…… 「「kickスる!」」


 思わず後ろを振り返りながら合わせてしまった。


「「アハハハハハッ!」」


 この空間が心地よくて、雨なんて気にならないほどに心は温まっていた。もう肌寒い時期なのに全然寒くなくて。


 ずっとこの時間が続けばいいのになぁと思ってしまった。でも、そんなことは叶わないんだ。現実を見なきゃいけない。だって、この女性ひとだって結婚していたり、彼氏がいたりするのだろう。


「思わず答えちゃいましたよ……」


「ふふふっ。よかったら、ご飯でもどうですか?」


「……僕なんかでいいんですか? っていうか、その……ご結婚とか……?」


 その女性は、頬を膨らませてまた「むう」と唸った。


「いません! だって、死下kickス好きな人、いないんですもん!」


「あれは、かなりマイナーゲームですからね……」


「だから、話が合う人とご飯行きたいんです」


 上目遣いにお願いされると、胸がドキドキするんですが。いつの間にか、雨は上がっていた。


「私、エミっていいます」


「えっ? 死下kickスのヒロインと一緒じゃないですか! 僕は、ケントっていいます」


「そうなんですよぉ! だから、好きだっていうのもあるんですけどね。ケントさん、カッコいい名前ですね!」


 カッコいいなんて初めていわれた。名前だけど。


「あの、近くに私の行きつけの定食屋さんがあって、おすすめはホルモン炒め定食です!」


「ぷっ!」


 雰囲気に似合わない定食の名前に思わず吹き出してしまった。


「むう! 笑いましたね! おいしいんですから! 行きますよ!」


 手を引かれて駆けていく。

 エミさんの背中はキラキラと輝いていて。

 振り返る笑顔は女神のようだった。


 雨が運んできてくれた女性は、僕の人生を煌びやかに彩ってくれる女神だった。

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