第2話 嫌なパーティー 後編

 そんな中で、ある貴族令息が口を開く。


「殿下、先日珍しい宝石が見つかったと連絡がありました」


 その令息は、宝石の発掘地を領地に持つのだ。


 デボラを始めとして多くの令嬢たちに見境なく装飾品を贈るセドリックに気に入られようと、いつも宝石の情報を渡している。


「おお、そうなのか?」

「はい。とても美しく輝く宝石だと。ご予約されますか?」

「しておいてくれ。お前はやはり頼りになるな」


 褒められた令息は嬉しそうな笑顔だ。

 セドリックはそんな令息の様子に満足げに頷くと、デボラに視線を向けた。


「デボラ、新しいネックレスなどはどうだ? 先週はピアスにしたからな」

「まあ、ネックレスが欲しかったのです!」

「ではネックレスにしよう。次はブレスレットなどもありだな」


 二人のそんな会話に、他の令嬢たちも口を挟んだ。


「殿下、私もピアスが欲しいと思っていたのです」

「私は先日、ネックレスを一つなくしてしまって」

「殿下の色合いの装飾品が欲しいですわ」


 令嬢たちの声に、セドリックは満更でもない顔をする。


「分かった分かった。皆に渡そうではないか。私は王子だからな」


 王子だとしてもそんなに自由に使える金があるわけではないのだが、セドリックは勝手に国庫に手を出していた。


 王妃が財務の者たちに圧力をかけており、国王はどちらかといえば武寄りの人だ。それによってなんとか皆が帳尻を合わせ、今まで大きな問題に発展していなかった。


 しかしカトリーヌは、さすがにそろそろ誤魔化しきれないことを知っている。


「――殿下、あまり国庫からお金を使われますと、何かが起こった際に国が傾いてしまいます」


 カトリーヌは王妃教育などで王宮に通っているため、王宮で働く文官たちとも知り合いだった。いつも頭を悩ませている財務の者たちを思い浮かべ、意を決してセドリックに苦言を呈す。


 しかし、案の定その忠告はセドリックの神経を逆撫でしたらしい。


「お前が私に意見するのか?」


 セドリックはカトリーヌを見上げるように振り向きながら睨んだ。


 その視線の強さにカトリーヌは負けそうになるが、必死に伝える。


「わ、わたしの意見というよりも、これは事実です。国庫といえど、無限にお金があるわけではなく……」

「ふんっ、そんなもの、足りなければ税を上げれば良いだけだ」


 そんなことをすれば国民からの反発は相当なものになるが、セドリックにそんな想像力があるはずもなかった。


 他の者たちはどう思っているのか知らないが、少なくともこの場でセドリックに意見することはない。セドリックの周りに集まっているような者たちは、明確に賛成していた。


「殿下のおっしゃる通りですわ。税を納めるのが民の勤めですもの」

「それに、殿下は王となる方なのですわ。殿下が国庫のお金を使えなくて、誰が使えると言うのかしら」

「デボラたちの言う通りだ。カトリーヌは愛想がないだけじゃなく、学も足りないのか?」


 そう言って下品に笑ったセドリックに、カトリーヌは唇を噛み締める。


「国民の皆さんは、すでに多くの税を納めてくれています。これ以上は、酷というものです」


 その言葉が決定打となり、セドリックの顔には青筋が浮かんだ。


「はっ、そこまで言うならお前が稼いでくれば良いだろ! お前は魔道具を作ってるんだ。あれを売れば良い。お前の下賤な趣味が役立つ時が来たぞ。はははっ、良かったな。おいっ、喜べよ⁉︎」


 セドリックから投げつけられた言葉に、カトリーヌは思わず泣きそうになり俯いた。


 魔道具作成は、確かに貴族令嬢としては珍しい趣味だ。しかしカトリーヌにとって、とても大切なものだった。それだけが生き甲斐と言っても良いほどだ。


 それを馬鹿にされたことが、とても悔しくて悲しい。言い返せない自分にも腹が立った。


(魔道具が発明されたことによって、生活は格段に豊かになったのに。あれはとても素晴らしいものだ。殿下だってその恩恵を受けている。それなのに、なんで下賤な趣味なんて言えるのだろう)


 カトリーヌの脳内には、人々のために少しでも便利な魔道具を作りたいと笑顔で言っている、知り合いの魔道具師たちがいた。


 セドリックは自らの生活が人々の働きによって成り立っていることを理解していない。それを改めて感じたカトリーヌは、セドリックが王になったらこの国は終わってしまうと悟る。


(どうにかして、わたしが最悪の未来を避けないと。殿下の婚約者に選ばれたのだから。この国に住む大勢の人たちのために……)


 自分を犠牲にするような、そんな決意を固めた。


 しかし、そこから少し離れたところでは、コレットがまた別の決意を滲ませている。


「絶対にカトリーヌを地獄から救い出すわ」


 誰にも聞こえない声量で呟いたコレットの瞳には、強い決意が滲んでいた。

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