第5話 八千代となるみの行方

「将軍さん、これ。あーん、して?」

「……ふん、女子(おなご)に食わせてもらうほど落魄れてはおらんわ!」

元将軍と呼ばれている老人は、口では毒づきながらも、私が差し出したスプーンを渋々受け入れた。

豆腐のムースが喉を通ると、彼の強張っていた肩の力がふっと抜ける。

「……悪くない。……昔、戦場で食った粥の味がする」

「戦場って……。将軍さん、ここ、令和のあとの異世界だよ?」

私が苦笑すると、事務員の『冷徹の眼鏡』がスッと現れた。

「岩音なるみさん。ボーナス確定です。将軍の孤独を3分間癒やした功績により、500トク進呈」

「よっしゃ! これで帰還に一歩近づいた!」

老婆の体でガッツポーズをするのは腰にくるが、背に腹は代えられない。

ふと見渡すと、そこには12人の住人たちが思い思いの「過去」を彷徨っていた。

徘徊を「行軍」だと言い張る元軍人、存在しない赤ん坊をあやす元保母さん。

彼らは皆、何かを失い、何かを必死に守ろうとしてここにいる。

「ねえ、蝶子さん。一つ聞いていい?」

私は、縁側で優雅に煙管をくゆらす蝶子に歩み寄った。

「おばあちゃん……八千代はどうなったの? 彼女もどこかの異世界で、私みたいに20代のギャルにでも転生してるわけ?」

蝶子は煙を吐き出し、遠い空を見つめた。

「いいえ。彼女の魂はもう、審判を終えて『次』へ向かったわ。でもね、彼女がこの世に遺した『記憶の欠片』が、この屋敷のどこかに迷い込んでいるみたい」

「記憶の欠片……?」

「そう。あなたが介護していた時に、彼女がどうしても伝えられなかった言葉や、忘れたくなかった景色。それが、この世界のどこかに『怪物』として、あるいは『宝物』として転がっているはずよ」

私は胸の奥がチクリと痛むのを感じた。

私が「重い、消えてほしい」とすら思っていたあの時間は、彼女にとっても、失いたくない宝物を必死に守る戦いだったのかもしれない。

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