第4話 魂の査定、はじまる

「ジジジバババーン」での生活が始まった。

私の役割は、ここの住人の一人として「徳」を積むこと。

徳のポイントは、神様たちの事務員が持つ「徳通帳」に刻まれる。

「ええと、本日の岩音なるみさん。食事を残さず食べた、プラス5トク。事務員の眼鏡神に挨拶した、プラス2トク。……合計7トクですね」

事務員の「冷徹の眼鏡」が、淡々とペンを走らせる。

「少なっ! 帰還チケットにはいくら必要なのよ?」

「100万トクです」

「一生かかっても無理じゃない!」

私は老婆の体を引きずりながら、事務室のカウンターを叩いた。

「もっと効率よく稼げるクエストはないの!? どっかの魔王を倒すとか!」

「ここは平和な世界ですから。あ、でも……あちらの『頑固な元将軍』の機嫌を直せたら、ボーナスで500トク差し上げますよ」

眼鏡神が指差した先には、食堂の隅で「こんな飯が食えるか!」と膳をひっくり返している老人がいた。

(……これ、おばあちゃんが家でやってたやつと同じじゃない)

かつて、私はそんな八千代を見て「またやってるよ」と冷たくあしらっていた。

でも、今、同じ「老人」の視点から彼を見ると、違うものが見えた。

彼の手は、小刻みに震えている。

彼は怒っているんじゃない。

自分の手が思うように動かず、箸が持てないことに、絶望しているのだ。

「……ねえ、将軍さん」

私はおぼつかない足取りで、彼の隣に座った。

「そのお豆腐、すごく柔らかいよ。一緒に食べない?」

28歳の私が絶対に言わなかった、優しい声。

それが、私の「修行」の第一歩だった。

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