第2話 イルミネーションデート

電車とバスと徒歩を駆使して、私たちは有名なイルミネーションを見にやってきた。

今日は燕ちゃんとのデートだ。ワクワクとドキドキが半分ずつ。


「燕ちゃん、今日は手袋してないんだね。寒くない?大丈夫?」


いつもあんなに厚着をしているのに、今日は防寒よりおしゃれをしているみたいだった。

私のためにそこまでしてくれたのは嬉しいけれど、心配が勝つ。


「手、直接心花ちゃんと繋ぎたかったから」


まっすぐ前を向きながら燕ちゃんは言う。だから手袋してこなかったんだ、と。


「手、あっためてほしい」

「……うん」


一向にこちらを向こうとしない燕ちゃんを可愛いなと思いながら、差し出された手を握った。

その手はだいぶ冷えていて、私はやっぱり心配になる。


「こっちの方がもっとあったかいよ」


冷たい燕ちゃんの指が私の指の間に入ってくる。

私の体温が燕ちゃんに奪われる。でもそれが心地いい。


こんなのずるいよ。


燕ちゃんはたまに、こうして攻めっ気のある行動をする。

いつも私からなにかすることが多いから、素直に嬉しい。

そうして毎回、ご褒美のような甘い時間に私はときめく。


「いろいろ調べてきたから今日はエスコートさせてほしい」



私は燕ちゃんに連れられてイルミネーションを見て歩く。

カラフルに彩られた木々に、光のトンネル。動物の形をしたものまで全てが輝いている。


「心花ちゃん、写真撮る?」

「撮りたい!」


燕ちゃんにぎゅっと寄ってカメラを見る。

燕ちゃんがシャッターを押す。


「撮れた?」


写真を確認しようとすると、燕ちゃんに待ったをかけられる。


「心花ちゃんこっち」

「ん」


声のした方を向いたと同時に、再びシャッター音が聞こえた。


「もー!不意打ちだめ!」

「かっわいいよ」


意地でも私に見せてくれないままひとりで写真を見てニヤニヤする姿はいつもの燕ちゃんだった。


「そういえばここ、私行きたいなって思ってたところだ」


ピンクとハートで埋め尽くされた場所。

イルミネーションデートしようって決まったときにいちばんに思いついたのがこの場所だった。


「心花ちゃん好きそうだなって思って。他にも目星つけてあるから行ってみない?」


その言葉通り、私が調べていたところは燕ちゃんも予習済みだったらしい。

私が行きたいなと思っていたスポットにはほとんど連れて行ってくれた。


途中で寄った屋台でホットココアを買って、私たちはこのパークの目玉である観覧車に乗ることにする。


遠くから見てもものすごい存在感の観覧車には多くのカップルや家族、お友達同士など、様々なグループが並んでいた。


「ごめん、こんなに混むとは思っていなくて」


並びながら燕ちゃんは謝る。


「謝ることないよ!それに一緒にいられる時間が長くなって嬉しい」


時間的に観覧車に乗ったら帰らないといけないだろうから、少し寂しかった。

だけどこの混雑のおかげで数十分は燕ちゃんといる時間を稼げたと思う。


「それならいいけど……」


落ち込み気味な燕ちゃん。

そんな彼女の腰に私は後ろから腕を回した。


「こ、心花ちゃん!?」

「いーじゃん。寒いからくっつきたくなっちゃうの!嫌ならやめる」

「嫌じゃない」

「ふふ」


燕ちゃんの背中と触れている私の胸からお腹までが温まる。

周りからどう見えているかなんてこの際気にならなかった。そこまで寒さも感じていなかった。

とにかくこの可愛い恋人とくっついていたかった。


この状態のままおしゃべりを楽しんでいると、あっという間に順番が回ってくる。

先に車内に入った燕ちゃんの手をとって私も乗り込む。


偏るといけないからと隣に座れなかったのは残念だけれど、2人きりの空間になれたことは嬉しい。


全面透明の観覧車から見える夜景は言わずもがな。

一生の思い出になること間違いなしだった。


「ねぇ燕ちゃん」

「なに?」


写真を撮る。さっきの仕返しだ。

燕ちゃんは私に手を伸ばしていたけれど席を立たなければ届かないので諦めた。

ふん、と頬杖をついて夜景に意識を戻してしまう。


「並んでる時さ、みんなの前でああいうことするの嫌だった?」


私は気にしない。でも燕ちゃんもそうとは限らない。もう遅いけれど、彼女が嫌がることはしたくなかった。


「逆に心花ちゃんは嫌じゃなかったの?」

「どうして?」

「学校でも、みんなの前では苗字呼びだし、あんまりくっつくこともないから。人の前では嫌なのかなって」

「学校では空き教室でいちゃいちゃするっていう特別感がいいんだよ。こういうところとは違うドキドキがあるから」


ふうんと燕ちゃんは夜景から目を離してくれない。

やっぱり嫌だったのだろうか。

そうだとしたら申し訳ないことをした。


「燕ちゃんごめ……」


最後まで言えず、私の口は塞がれる。

観覧車が小さく揺れる。



長くて甘いキスだった。


「観覧車でこういうことするくらいには嫌じゃないよ」


私は固まる。

燕ちゃんから、しかもこんな透け透けな観覧車の中で。

私を固めた犯人は頬杖をついて、今度は私を見てくれる。


「いい眺め」






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