第3話 お揃いとマフラー
今日の午後の授業は家庭科だ。
リボンの形になる予定の編みかけのそれを袋から取り出して、前回の終わりの部分から編み始める。
彼女は今、古典の授業だなぁとか、早く放課後にならないかなぁとか考えながら、私はリボンを編んでいく。
心花ちゃんが好きな薄いピンク色の毛糸が少しずつ減っていく。
放課後、今日も私たちはこっそりと空き教室に来ていた。
制服のポケットには今日完成したばかりの手作りキーホルダーが入っている。
心花ちゃんにあげようと思って編んだはいいものの、喜んでくれるか今になって不安になってきた。
しかもお揃い。
実は、心花ちゃんにあげる予定のものを完成させたあと、自分用にとひとまわり小さいものを完成させていたのだ。
どうしてお揃いにしてしまったのかと今更ながら後悔する。
お揃いに加えて手作りなんて重すぎやしないだろうか。
付けてこなければよかったのに、私の鞄の外側にはすでにキーホルダーがついている。
「燕ちゃん?」
「な、なに!?」
心花ちゃんに呼ばれて私はさっと鞄を背後に隠す。
「なにか隠してる?」
「いやいやいや!!なにも?邪魔かなって思ってさ!」
「ふーん……」
すごく怪しまれている。
心花ちゃんは私をぐるりと一周見回した。
「それ、家庭科で作ったやつ?」
私の鞄についたリボンを指さして言う。
薄いピンク色の小さなリボン。
「かわいい。燕ちゃん編むの上手だね」
私の鞄のすぐそばにしゃがみ込んでリボンをじっと見る心花ちゃんの背中を私は目で見る。
私が編んだものを可愛いって思ってくれている。
「あの、心花ちゃん」
渡すのは今しかないよ!と私のポケットに入ったリボンが叫んでいる気がした。
「これ」
「え?」
振り返った心花ちゃんは不思議そうな顔をする。
そんな彼女の手をとって、私は薄いピンクのリボンを手渡した。
「私に?」
「心花ちゃんにあげようと思って編んだの。受け取ってくれたら嬉しい……」
徐々に声が小さくなりながら、私は言い切る。
心花ちゃんはキーホルダーを受け取って、大きくてキラキラした目で私を見る。
「ありがとうっ」
嬉々とした表情で自身の鞄につけてくれる様子を見て、私はほっと安心した。
「見て!お揃い!かわいい!」
ふたつの鞄についたキーホルダーを見せるようにして心花ちゃんは言う。
「実はね、私も燕ちゃんに編んでたんだ」
「そうなの!?」
天下の美少女が私に!?
これは丁重に扱わねばと気を引き締める。
心花ちゃんは自分の鞄をガサゴソと漁り出した。
「そんなにかしこまらなくていいよ。……はい、これ」
リボンのついた鞄から出てきたのは長くて太いマフラーだった。
心花ちゃんはそれを私と、そして自身の首に巻く。
「心花さん?ち、近い」
「ここ寒いんだもん」
そりゃあそうだろうと心花ちゃんの生足を見つめる。
眼福。
「どこ見てるの?」
「すみません」
話すたび、心花ちゃんの息がかかる。
心臓がうるさい。
マフラーの中だけが冷たい周りの空気から切り離されたみたいに温かい。
「あったかいね」
ふたり並んで椅子に座りながら手を繋ぐ。
なにも話さず、静かな時間が過ぎていく。
肩が触れ合うたび、私は体をこわばらせた。
「そろそろ帰ろっか?」
「……うん」
もう少しこうしていたかったけれど、学校にいられる時間も限られている。
心花ちゃんは巻いていたマフラーを外して私に巻き直してくれる。
量が増えたはずなのに、心花ちゃんと巻いていた時の方が温かかった。
荷物を持って、心花ちゃんは振り返る。
「忘れ物」
「忘れ物?」
荷物はこれで全部だったと思うけど……。
見逃しているものがあるのかもしれない、と私はもう一度室内を見回す。
特に私物のようなものは見当たらない。
すると背後に圧がかかる。
「ハグ、今日してないよ」
マフラーをしていたときよりずっと近い距離から声が聞こえた。
「……そうだね」
心臓バックバクになりながら私は180度回転して心花ちゃんに向き直る。
ちょっぴり拗ねたような顔をした心花ちゃんがそこにいて、私は微笑む。
可愛い。
せっかく巻いてくれたマフラーを私はほどいてふたりの首に巻く。
「ん」
少し背伸びをして心花ちゃんに近付く。
顔まで覆うマフラーだけが私たちの口付けを見ていた。
「また明日も寒かったら一緒に巻こ」
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