第3話誰にも頼らず生きていたい!
あたしと城ヶ崎ちゃんは三井先輩に連れられて三年五組の教室に向かった。そこにファイヤーレディースの総長にして風林火山の一角、火村明美先輩がおるそうや。あんま怖い人やないとええなあ。せやけどそないなことあるわけないかあ……
「火村明美さんは話せば分かるほうだからさ。そんなに緊張しないでよ、久坂」
心を見透かすようなことを言うた三井先輩に「そら緊張しますよ」と正直に零す。
「なにせ都内で一番危ない高校の偉い人なんですから」
「まあビビってたほうが慎重になるからいっか。城ヶ崎はどんな感じかな?」
「……別に」
相変わらずクールビューティなんやけど、ここは少し緊張したほうがええんちゃうか? 変なこと言わないか心配やで……
「さてと。着いたよ」
あかん。頭の中まとまっとらんのに着いてもうた。
覚悟とか決まる前に三井先輩が「火村さん連れてきました」と軽いテンションで教室のドアを開けてまう。隣の城ヶ崎ちゃんは躊躇無く続いて入った。ああもう!
「あら三井。少し予定と違うんじゃないかしら」
お上品な言葉遣いやけどなんだか圧力を覚える――あたしは息を飲んだ。
赤に染めているポニーテールでド派手な特攻服を着とる。かなり気合の入った女性という印象や。せやけど、そんなんどうでもいいほどのインパクトな光景が広がっていた。
多分、檻神高校の男子生徒や。そん人たちが教室の床に大勢倒れとる。全員怪我しとって血も流れとる。うめき声が小さく重なっとってまさに死屍累々という四字熟語がぴったしやった。
十数人の女の子に囲まれながらそれを眺めとるのが特攻服の人や。そん目はゴミか汚物を見とるときと一緒やった。いったいどんだけの人生を歩んだらそないな風に人を見下せるんやろか……
「いやあ。この城ヶ崎が物凄く強くてですね。負けてしまったんですよ」
「へえ。あなたほどの実力者がねえ。それじゃ作戦が台無しじゃない」
こっちを睨みつけとる……怖い、逃げ出したい!
「作戦って……あーしがぼっこぼこにして弱ったところで『話し合う』ってやつですか? 無理だって言ったじゃないですか」
「ふん。あなたが本気でないことぐらい私でも分かるわ。怪我してないんだもの」
「……怪我をしない程度でいいって言ったのは火村さんなんで」
な、なんやこれ……ほんまに女子高生の会話なんやろか……
ぶるぶる震えとるあたしをちょっと見て、それから火村先輩は城ヶ崎ちゃんに「あんたが城ヶ崎加奈子ね」と睨みつける。
「…………」
「ブルって声も出ない……そうじゃないわね。どうでもいいって顔してるもの」
「あ、あの! なんとか見逃してもらえないでしょうか……?」
勇気を振り絞って直談判すると「黙りなさい」と火村先輩は近くにいた男子生徒を踏みつけた。小さい悲鳴が聞こえて出かかった言葉を飲みこんでまう。
「見逃すってどういうことかしら? あなたがお金を寄越さなかったからこんなことになっているんじゃないの」
カツアゲは立派な犯罪やで……
「それよりこいつらなんなんですか?」
三井先輩があたしも気になっていたことを指摘してくれた。
火村先輩は「ああ。これね」とまた男子生徒を踏みつけた。
「馬鹿な一年よ。火村明美を倒して自分がトップになりたいって。ま、返り討ちしてやったけど」
「馬鹿ですねえ。そんなことできるわけないのに」
「話を戻すわ。この際、お金のことはいいわ。だけどね、城ヶ崎――あなたはウチのチームのメンバーをやった。それはこの学校のルールを破ったと同じなの」
ぎろりと目つきが鋭くなる。
あたしは城ヶ崎ちゃんと火村先輩を交互に見た。
クールですまし顔の城ヶ崎ちゃん。
完璧にキレてる火村先輩。
「ここで謝罪してファイヤーレディースに忠誠を誓うのなら許してあげてもいいわ。どう? 寛大でしょ」
あたしはどうか、素直に頭を下げてほしいと願った。
男子生徒をぼっこぼこにしてまう女の子やろ? いくら城ヶ崎ちゃんが強い言うてもそれは女子の中での話や。しかも十数人の武闘派女子がおる。勝ち目はないわ……
「……断る。僕は絶対にそんなことしない」
ああ。祈りが通じひんかった……
怒りに満ちた顔で火村先輩は「正気なの?」と問い質してきた。
「僕は誰にも従わない。誰にも頼らない。そういう生き方を目指しているの」
「へえ。いい度胸してるじゃない……」
「確かに僕はあなたたちのメンバーを倒した。それは認める」
城ヶ崎ちゃんはあたしを見て「でもこの人は関係ない」と言い出した。
何を言うんやろと驚いとると城ヶ崎ちゃんは髪の毛をかき上げた。
「この人は見ていただけ。危害も加えていない。僕はここに残るから、この人は帰してあげて」
ここでようやく、あたしはどうして城ヶ崎ちゃんが三井先輩の言うとおりここに来たのか分かった。
全部、あたしのためやったんや。
あたしを無関係にして、ファイヤーレディースから守るために来たんや。
「へえ。友達じゃないんだ。ふうん……いいわ。久坂だっけ? 自分のクラスに戻りなさい」
火村先輩は冷笑しとった。
あたしが何もできない弱い存在やと見下しとった。
悔しい。でもそれ以上に悔しいのは――
「…………」
「どうしたの? さっさと出て行きなさい」
「……いやや。絶対にいや!」
弱い自分が言うなと叫んどる。
せやけど、止められへんかった。
当たり前や。止めるなんてできるか!
「あたし、無関係ちゃうもん! 城ヶ崎ちゃん、水臭いわ!」
城ヶ崎ちゃんの顔をしっかりと見る。
いつもどおりの無表情やったけど、それでも伝えないとあかん!
「――あたしたち、友達やろ! 二度と無関係とは言わせへんで!」
ああ、言うてもうた。
おとんとおかん、ごめんなさい。堪忍してなあ。
あたし、ここで死んでまうかも。
「よく言えたわね……度胸は買ってあげるわ」
火村先輩の声が遠くに聞こえる。
ファイヤーレディースの面々がこっちに近づいてくる。
ああ、もう駄目やあ……
「お代はあなたたちの命を払ってやるわよ!」
一斉に三人襲ってきた。
あたしは思わず目を閉じてしもた――
「馬鹿だね、本当に馬鹿だよ――久坂さん」
呆れ果てた声。
ゆっくり目を開けたときにはすべて終わっとった。
三人の女の子が仰向けに倒れてた。
いったい、何が……
「僕なんかほっとけばいいんだ。そうすれば平和な学校生活が待っていたのにさ」
城ヶ崎ちゃんがファイティングポーズとっとる。
まさか、あの一瞬で三人もやっつけたんか!?
そないなこと、おとんでもできひんのに!
「僕は他人に頼るのは嫌いだ」
城ヶ崎ちゃんはとんとんとんとリズムを刻みながら火村先輩を見とる。
あたしには目を切らずに相手だけを見つめとる。
「だから、久坂さんが言ってくれた言葉を頼らずに生きていく。ここであなたたちを倒せば――久坂さんの覚悟は無意味になるからね」
よ、よう分からん理論やけど……城ヶ崎ちゃん、やる気になったようや。
「へえ。死にたいらしいのね」
「そうじゃないよ。さっきも言ったけど、僕は誰にも頼らず生きたいんだ」
挑発めいた言葉に火村先輩はキレたようやった。
近くにいた三井先輩が「これは面白くなってきたね」と呟いた。
「みんな、この生意気な一年を――やっちまえ!」
無頼漢JK 橋本洋一 @hashimotoyoichi
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