第2話ファイヤーレディースへのご招待!

「おはよう、城ヶ崎ちゃん! 今日も綺麗やなあ!」

「……おはよう」


 数日経って城ヶ崎ちゃんがあたしの挨拶に反応してくれるようになった。

 一緒にお昼ご飯食べても嫌な顔もせえへん。

 あたしが一方的に友達やって思うけど、城ヶ崎ちゃんはどうやろか?


「あーあ。今日も平和に過ごせたらええなあ」

「…………」


 席に着いてそう言うたら城ヶ崎ちゃんは無言のままやった。

 転入初日以来、不良の女の子が絡んでくることはなかった。

 クラスメイトも遠巻きに見とる。はっきり言うたら腫れ物扱いや。


「そういえば城ヶ崎ちゃん。この前――」


 休み時間の間はあたしが一方的に話しとる。

 相槌を打ってくれへんけど、時々質問したら答えてくれる。

 優しいんかどうかよう分からんなあ。


「……ねえ久坂さん」


 その日の昼休みのときやった。

 唐突に城ヶ崎ちゃんのほうから話しかけてきた。

 ごっつ驚いてしもたから「ふぇ!? な、なんや城ヶ崎ちゃん?」と戸惑った。

 城ヶ崎ちゃんは髪をかき上げてからゆったりとした口調で話し出した。


「あなた……この学校でお友達いるの?」


 うーん、答えづらいわあ。

 まあここは正直に話すしかあらへん。


「いいや。城ヶ崎ちゃんしかおらへんよ」

「そう……」


 取り出したお弁当箱をじっと見つめる城ヶ崎ちゃん。

 何気ない光景なのに絵になるなあ。

 ……友達やって言っちゃったけど何の反応もあらへん。少し寂しいわあ。


「じゃあ訊くけど……」


 城ヶ崎ちゃんは顔を上げて廊下のほうを見た。

 つられて見ると――そこに一人の女の子が覗いていた。


 たれ目でにやにやと笑っている。制服を着崩しておるけど常識の範囲内や。

 ショートヘアで茶髪。目線からあたしたちを見ているのが分かった。

 城ヶ崎ちゃんほどやないけど、可愛い子やった。


「……あれは久坂さんのお友達じゃないんだね」

「う、うん。見たことあらへん」

「ずっと見ていた。さっきの授業の途中から」


 全然気づかへんかった……城ヶ崎ちゃんは気配に敏感なんやろか。

 逸らさずにずっと見とると女の子のほうも気づいたのか、笑みを消さずに教室の中に入ってきた。なんなんやろと思うてると「あははは。気づくよねえ」と喋り出した。あたしたちは座ったまま様子を窺う。


「あーしは二年の三井葉子みついようこって言うんだけどさ。ほら、あんたたちファイヤーレディースのメンバー締めちゃったじゃない」


 同学年やと思うたら先輩だった――あたしは「し,締めたちゅうか……」と恐る恐る反論する。


「向こうが絡んできただけですやん」

「ふふふ。可愛い関西弁だね。でもウチのリーダーはそれで納得できないよ」


 三井先輩、にこやかに言うとるけどちょっと怖いな……

 すると城ヶ崎ちゃんが「リーダーって誰なの?」と訊いた。


「ファイヤーレディースのリーダーは火村明美ひむらあけみさんだよ。ほら、檻神高校の『風林火山』の一人だし」

「ふ、風林火山……?」


 聞きなれない単語が出てきてますますパニックや。

 城ヶ崎ちゃんも知らへんらしくて「なにそれ」と首を傾げた。


「四人の実力者ってことだよ。風林火山の火が火村明美さん」

「そ、そうなんですか……」

「風林火山の唯一の女子にして紅一点って言えばいいのかな? とにかく何らかの釈明は必要かもね」


 ああ、なんというか面倒なことになったなあ……

 城ヶ崎ちゃんはなんて返答するんやろか。


「面倒だから行かない」


 おお、クールビューティやな……キャラがぶれへん。

 三井先輩は「うーん、それじゃ困るんだよね」と可愛らしく口元に指を置く。


「あーしも子供のおつかいじゃないんだからさ。来てもらわないと困るよ」

「そんなの知らないよ」

「だから……それじゃ困るってば!」


 いきなり三井先輩が城ヶ崎ちゃんの座っていた椅子の脚を蹴った――浅く座っていた城ヶ崎ちゃんは尻もちをつく――と思ったら動かへんかった。


「へえ。いつから空気椅子だったのかな?」


 そう。三井先輩の言うたとおり、城ヶ崎ちゃんは空気椅子だったからお尻から床に落ちることもなかった。そしてすくっと立ち上がって「何のつもり?」とこれまたクールに返す。


「力づくで連れていく……それ以外考えられる?」

「やめておきなよ」


 あわわわ……また喧嘩が始まってもうた……

 三井先輩の目が物騒になっとる。

 城ヶ崎ちゃんも臨戦態勢や――


「せりゃ!」


 短い気合と共に三井先輩がハイキックを放った。

 その勢いは頭をすっ飛ばすくらいで、普通に食らったら意識を刈ってしまうほどや。

 流石の城ヶ崎ちゃんも避けるしかなかった。上体を反らす――髪の毛が数本舞うのを見た。


 三井先輩の攻撃はそれでは終わらんかった。

 蹴りの回転を利用して逆のほうの足で攻撃する。いわゆる連撃や。しかも今度はミドルキックや。態勢を崩した城ヶ崎ちゃんじゃ躱せない――


「……甘いよ」


 反らした状態からもっと頭を下げる――バク転や!

 後ろに大きく飛んで三井先輩の攻撃から逃れたんや。まるで新体操の選手のようやった。

 そんで床に手足を付いてから、クラウチングスタートよろしく三井先輩に飛びかかった。

 これまたほんまの陸上選手みたいに速い――三井先輩を押し倒した。

 マウントを取って拳を作って、下の三井先輩に「まだやる気かな?」と冷たく訊く。


「……ここまでできるとは思わなかったかな。あーしもまだまだだ」

「僕の聞きたい返事じゃないけど」

「……分かりました。降参します」


 両手を挙げて降参のポーズを取った三井先輩に「まだやれそうだけどね」と城ヶ崎ちゃんは言いつつ上からどいた。

 埃を払って三井先輩は立ち上がった。


「おいおい。あの三井さんに勝つのかよ」

「とんでもねえな……」


 クラスメイトがどよめいとる……あたしが言えた義理やないけど、止めてほしかったわ。


「えっと。勝負はついちゃったけど……その上で火村明美さんと会ってくれない?」

「……恥をかくのはあなたのほうだよ、三井さん」

「恥知らずなのは分かっている。でもあーしはあんたのために会ったほうがいいと思うんだ。そこの久坂登紀子もね」


 どういう意味やろ?


「風林火山を敵に回したら平和に過ごせないよ。少なくともファイヤーレディースは敵に回る」

「…………」

「そりゃあんたが強いのは一目瞭然だよ。でも数の暴力でこられたら勝てっこない。それにそこの久坂が真っ先にやられちゃうよ」

「あ、あたしが狙われるんですか!?」

「そりゃそうだよ。あんたも城ヶ崎の仲間だって思われているんだもん」


 ああ、おとんとおかん。あたしの高校生活は終わりました。

 どないしよと絶望しとると「そっか……」と城ヶ崎ちゃんは考え始めた。


「……分かった。火村明美と会う」

「えっ? ……あーしにとってはいいことだけど、なんで急に気が変わったの?」


 城ヶ崎ちゃんは答えずにあたしのほうを見た。

 無感情で無表情のままやった。しばらくあたしたちは見つめ合った。


「な、なに? 城ヶ崎ちゃん?」

「別に……三井さん、案内してくれるかな」

「……いいよ。さっそく行く? それとも放課後にする?」


 よく分からへんけど納得した三井先輩。

 城ヶ崎ちゃんの気まぐれなんやろか。よう分からんかった。

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