3 ランタン通り
セントルイスまでは、うちから車で三十分ちょっと。
小さいころから何度か来たことあるけど、来るたびにちょっと“観光”っぽい気分になる。
ミズーリの中じゃいちばん都会って言われるけど、人口だけでいえばカンザスシティーのほうが多いらしい。
でも、テレビに映る大都市みたいなキラキラ感とは少しちがって――なんだか、ちょっと古くて、ちょっと寂しくて。
でも、その感じが私は嫌いじゃない。
「西への玄関口」って呼ばれてるらしくて、有名なアーチもある。
観光パンフではピカピカに映ってるけど、実際はもう少し落ち着いた雰囲気だったり。
でもむしろ私は、この町の“昔の夢がまだちょっと残ってる”感じが、けっこう好きだったりする。
「さあ、降りてください」
モリスさんの声にうながされて、魔法省の車から降りた。
そこは観光客用の大きな市営駐車場で、まわりにはカフェや土産物屋が並んでいる。
どの店のドアも開け放たれていて、外までコーヒーや焼き菓子の甘い匂いが流れてきた。
「ここから歩きます」
「……え?」
思わず聞き返すと、ヘインズさんが車のキーを取り出しながら答えた。
「今日行くランタン通りは、州の規定で車の立ち入りが禁止されているんです」
「なんでですか?」
「景観保護のためです」
モリスさんが「さあ、行きましょう」と笑顔で言う。
私はうなずいて、駐車場を後にした。
▽ ▽ ▽
セントルイスは、信じられないくらい暑かった。
日差しがジリジリ照りつけて、逃げ込める日陰はどこにもない。
水筒は持ってきてたけど、この調子じゃすぐ空っぽになるだろうなって思った。
駐車場を出てしばらくは、観光地っぽい通りが続いた。
古いレンガの建物に、カフェや土産物屋が並んでいる。
私たちの前を歩く観光客の家族は、大きなアイスを持って笑っていて、道端では似顔絵を描くおじさんが、通りすがりに声をかけていた。
「ここからです」
モリスさんが指さした先に、古びた鉄のアーチが立っていた。
ただの歴史的な門……のはずなのに、近づくにつれて空気が変わっていくのがわかる。
風の音がやけに静かに響いて、太陽の光は少しやわらいだ。
足元の石畳も、さっきより深い色をしている気がする。
アーチをくぐった瞬間――景色が一変した。
両脇には色とりどりの旗や看板を掲げた店がびっしり並び、石畳の道には台車や手押しカートがひっきりなしに行き交っている。
頭上は思ったより静かで、ときどき小さなドローンが横切るくらい。箒に乗った人は見当たらなかった。
看板のいくつかは魔法でゆっくり回ったり光ったりしていて、昼間なのに小さな提灯がふわりと浮いていた。
煮込み料理や香草の香り、魔法インクのツンとした匂いが入り混じって鼻をくすぐる。
風がやさしく頬をなで、汗がすっと引いていく。
さっきまであんなに暑かったのに、ここだけクーラーが効いてるみたいに涼しい。
「――ようこそ、ランタン通りへ」
モリスさんの声に、私は思わず息を呑んだ。
そこは、これまでに見たどんな“観光地”とも違う世界だった。
▽ ▽ ▽
「――まずは制服ですね」
モリスさんがそう言って、レンガ造りの建物をさした。
入口の脇には深緑の木枠ドア、その隣には大きなショーウィンドウ。
頭上には古びた金文字で――Harrison Magical Tailor。
中では男女のマネキンが並び、どちらも濃紺のジャケットに銀色の校章をつけている。
入口横には紺地に金文字で「リバーサイド 制服請け負います」と書かれたのぼり旗が三本、風に揺れてなびいていた。
「ここが『ハリソン魔法仕立て店』。リバーサイドの制服は、全部ここでそろいます」
モリスさんがドアを押すと、鈴がちりんと鳴った。
温かな魔法灯の光と、布と糸の匂いがふわりと流れてくる。
「――いらっしゃいませ」
カウンターの奥から、白髪の男性が顔を出した。
背筋がしゃんとしていて、いかにも仕立て屋って感じの人だ。
ヘインズさんは、さっそく本題に入った。
「こんにちは。この子、リバーサイド魔法学校の新入生です。制服一式をお願いします」
差し出した封筒を、紳士――たぶん店主さん――が受け取り、カウンターで開いた。
「承知しました。では採寸のあいだに、注文内容を確認しましょう」
そう言って店主は、ヘインズさんとモリスさんとで書類を広げ始める。
三人ともすっかり“大人の手続き”モードだった。
その間に、若い女性の店員さんがやってきた。
「こちらへどうぞ。すぐ順番になります」
私はうなずき、案内されるまま奥へ進む。
採寸用の踏み台は三つしかなく、私たちは少し並ぶことになった。
保護者らしい大人たちが壁際の椅子に腰を下ろし、静かに順番を待っている。
列には、私のほかに三人ほどが並んでいた。
すぐ横の小さなショーウィンドウには、古い制服や木製の裁ちばさみ、金属のメジャーが飾られていた。
横には――「昔の採寸道具 さわらないでください」と書かれた札が、ちょっと偉そうに置かれている。
私のすぐ前に並んでいた黒髪の男の子が――その中の一本を、じっと見ていた。
「……これ、古いな」
小さな声に、思わず首をかしげる。
「え?」
男の子は目を離さずに続けた。
「巻取りが手動式だ。三十年ぐらい前の型。魔力計測もないし、ただの巻き尺にちょっと魔法かけただけ」
それでも当時は「すごい時代になった」って言われてたんだ、と小さく笑った。
やがて順番がきた。
さっきの男の子が真ん中の台に、私がその隣に立つ。
「ちょっとくすぐったいけど、すぐ終わるからね」
店員さんがにっこりして、手にした細長い巻き尺をひと振り。
先端が生き物みたいにしゅるしゅると伸びて、肩や腰回りをするすると測っていく。
店員さんは見ているそぶりもなく、タブレットをのぞいていた。
「おお、これがタブレット連動か!」
男の子が目を輝かせ、タブレットを覗き込む。
「動かないでね」と店員さんに注意され、しぶしぶ引き下がった。
「知ってる? ――前は手で測って、紙に書いてたんだって」
「ほんと?」
「うん。ママが言ってた。巻き尺の数字を読んで、間違えないようにメモしてたんだってさ」
私は思わず笑った。
「なんか……アナログだね」
「だよね。でも、そのときはそれが普通だったんだ」
巻き尺は足首から頭まで一周して、最後に肩口でぴたりと止まった。
「はい、終わりです」
店員さんが笑顔で告げた。
測定台を降りるとき、ちらっと横を見たら――
さっきの男の子が、ちょっと得意げな顔をしていた。
【あとがき】
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全米魔法学園物語 輝城蒼空 @Kijo-Sora
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