運命の赤い糸

私が教室に入ると、女子たちが数人集まって話をしているのが目についた。


「え〜! 〇〇ちゃんあの人が好きなの〜!?」


「しー! 声が大きい!」


どうやら恋バナをしているようだ。


(朝っぱらからこう騒がれると朝の読書ができないじゃないか。)


私は昨夜から練った完璧な一日の計画が崩れ去る音を聞きながら、カバンから本を取り出すと机の中にしまった。そして机の横にあるフックにカバンをかけた時、一人の女子がこんな話を始めた。


「ねえねえ、こんな話知ってる? この学校に伝わる『運命の赤い糸』の伝説!」


(『運命の赤い糸』なんて有名なやつじゃないか……?)


「この学校の中庭にある百葉箱! あれを二人一緒に開いて中に赤い糸が入ってたらその二人は結ばれるんだって!」


(なんだそれ……)


きゃー、と女子たちが叫ぶ中、私は心底呆れていた。


(くだらないな。それに、私には一緒に開けてくれる相手もいないし関係ない話だな。)


そんなことを考えていると、ガラッとドアが開き先生が入ってきた。


「もう鐘なるぞー。席につけー」



***



──放課後、なぜか目の前に百葉箱があった。


(ああ、来てしまったか……)


私としたことが、この知的好奇心を抑えきれなかったようだ。

ブンブンと首を振り周りを見渡すが誰もいない。もうみんな帰ってしまったようだ。

ほっとしたのも束の間、耳元から声がした。


「どうかしたのか?」


びっくりしすぎて私は腰を抜かしてしまった。


腰を抜かした私を見て相手はおろおろしている。


「驚かせてしまったか……。すまない」


相手はおそらく先輩だろう。生徒会の腕章をつけている。


その先輩を見て、私はこの知的好奇心を満たす良いことを思いついた。


「あ、あの……すみませんがこの百葉箱に用があるんですが開かなくて……。一緒に開けてもらえますか?」


「え? ああ、良いけど……」


さらっと嘘をついてしまった。いや、百葉箱に用があるのは本当だし嘘にはならない……よね?


私と先輩は百葉箱の扉に手をかけ、力を入れる。その扉は簡単に開き、中には短い赤い糸が一本置いてあった。


「なんだ? この赤い糸……」


「な、なんでしょうね〜……」


私は急に高まりだした心臓の鼓動を抑えながら一生懸命取り繕う。


(本当にあった〜!! え? あれが『運命の赤い糸』!? そして……この人が……私の、運命の相手!?)



──それが、私と先輩の恋が始まった瞬間だった。

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短編集 青井由紀 @aoiyuki_noa

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