サンタになった日
クリスマス。元々はある人の誕生日をお祝いする日らしいが、この国ではもうそんなことは関係なく、ただの季節のイベントとなっている。
そのクリスマスは、大体の子供が楽しみにしているイベントだと思う。
なぜかというと、サンタという人物が夜、枕元にプレゼントを置いていってくれるからだ。
しかしプレゼントは誰でももらえるわけではなく、なんでも、いい子にしている子供だけがもらえるらしい。
──が、私は子供の頃にサンタからプレゼントをもらったことがない。
小学校の時、周りの子達が「サンタさんから何もらった〜?」と話しているのを聞いて本で調べて初めて知った。
その時母に、なぜうちにはサンタが来ないのか、と尋ねたところ
「母さん、サンタの電話番号なんて知らないもの。」
だそうだ。
私はその時
「そうか。まずサンタと知り合わないといけないのか」
と思ったのを今でも鮮明に覚えている。
しかしもう成人してしまったので、今サンタと知り合ったところで私の枕元にプレゼントを置いてくれる、ということはないだろう。
別に欲しいものなんかないけれど、一度くらいサンタからプレゼントをもらってみたかったなあ。
──なんて考えていると窓の外に白いものがちらついた。
ベランダに出てみると、雪が降っていた。
「はー、珍しい。ここら辺はクリスマスに雪なんて滅多に降らないのに」
今日はホワイトクリスマス──か。
寒いので部屋の中に入ろうと窓を開けた時、遠くから鈴の音がした。
音の鳴る方を見てみると、空中に物体を見つけた。
しかも、その物体は何やら近づいてきている。
「鳥か? こんな夜に?」
やがて暗闇の中でも目を凝らせばその物体が何か、ということはわかるくらい近づいたのだが……
「は? 鹿!?」
なんと、鹿が二頭ソリを引いていて、そのソリの上に赤と白の服を着たおじいさんが乗っているではありませんか!?
本で見た通りのビジュアル。絶対にサンタだ!
そのソリは私の前で止まり、おじいさんサンタのもじゃもじゃとした白い髭が動いた。
「トナカイじゃよ」
「あ、そうだった! トナカイだった!」
私としたことが、あんなに本にかじりついて見ていたのにトナカイをド忘れしてしまうだなんて、恥ずかしい……
そんなことよりせっかくサンタに会えたのに、最初に交わした言葉が訂正だなんて、なんか嫌だ。
今までシミュレーションしていた妄想たちが全部吹き飛んでしまった。
──で、私は子供でもないし、うちに子供はいないのに、なんだってサンタがこんなところに? と考えていると
「君に頼みがあっての……」
読まれた!? 心、読まれた!?
「ん? 頼み?」
「そうじゃ、君にわしの仕事を手伝ってもらいたくての。ふぉっふぉっふぉ」
まじですかー!!?
びっくりしすぎて開いた口が塞がらない。
「私が!? この私が、手伝ってもよろしいのでしょうか……?」
思わず敬語が出てきてしまった。いや、初対面なんだから、敬語は普通か?
「このソリに乗って、子供達にプレゼントを配るのを手伝って欲しいんじゃ」
ゆっくりとした口調で言った後、おじいさんサンタが指をヒョイっと回すと私の体は宙に浮いた。
「うわっ!?」
そしてそのままソリに乗せられ、おじいさんサンタがトナカイに合図を出し空中を駆けていく。
「と、飛んでる……!」
「ふぉっふぉっふぉ。喜んでくれたかな?」
それはもう──。嬉しいなんてもんじゃない。サンタに会えただけではなく、一緒にプレゼントを届けられるだなんて……!
そうこうしているうちに一軒目の家に着いた。
窓から覗くと男の子がベッドでぐっすり眠っている。
おじいさんサンタはまたもや指をヒョイっと回す。
すると窓の鍵が外れ、ゆっくりと開いた。
「すげー!」
思わず声をあげると男の子がうーんと唸った。私はハッとし、すぐに口を手で押さえる。
「しー……」
おじいさんサンタはウインクをしながら人差し指を口元にあてた。
そして白い大きな袋からプレゼントらしき箱を取り出すと、私に手渡す。
私はそっと男の子の枕元にプレゼントを置いた。
去り際におじいさんが指をヒョイっと回すと窓が閉まり、鍵がかかる。
二軒目も、三軒目も、同じようにプレゼントを置いていき、夜が明けるまで二十軒以上回ったと思う。流石に疲れた。
***
空が明るくなってきた頃、袋の中のプレゼントを配り終わり、私たちを乗せたソリは家のベランダに戻ってきた。
「今夜は助かったよ。ありがとう」
おじいさんサンタは長い髭を触りながら笑顔でそう言った。
「いえ、こちらこそ!手伝わせてもらって楽しかったです……!」
するとおじいさんサンタは中身がなくなり萎んだ袋から箱を取り出し、私に手渡す。
「これって……もしかして私の? でも、プレゼントは子供しかもらえないんじゃ……」
「君は子供のような純粋な心を持っておるから、今回は特別じゃよ」
「──っ!」
涙が溢れる。ずっと会いたかった人にここまで言われて泣かないわけがない。
太陽が登って薄暗かった空が青くなっていく。
「じゃあ、わしはこれで。メリークリスマス!」
そう言っておじいさんは鈴の音を鳴らしながら行ってしまった。
「ありがとうー! サンタさーん!!」
私は心から叫んだ。おじいさんサンタさんのふぉっふぉっふぉという声が聞こえた。
ベランダから部屋の中に入り、箱を開けてみるとそこには小さなクリスマスツリーが入っていた。
小さな豆電球や飾り付けがされており、てっぺんには小さいけど綺麗な星が光り輝いていた。
「ふふっ。かわいい」
──私は今夜の出来事を絶対に忘れないだろう。
私がサンタになった日の事を──
「あ。電話番号聞くの忘れた」
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