食い物の恨みは恐ろしい
「食い物の恨みは恐ろしい」
食べ物に関する恨みというのは根深く恐ろしいという意味だが、俺は今、この言葉を身をもって体感している。
それは昨日の出来事から話さねばなるまい……
***
昨日はやけに寒い日だった。雪こそ降っていないが、外は凍えるような寒さだ。
そんな中、俺はリビングのこたつで一日中SNSを見てゴロゴロしていた。
「いや〜こたつってのは最高だね〜。現代の文明さまさまだね〜」
ちなみに今日は平日だ。子供も大人も学校や仕事に出掛けている時間帯。
それなのに、なぜお前はこたつでぬくぬくやってるのかって?
それは、俺がニートだからだ! はっはっは!
っと、いけないいけない、毎日の恒例、デイリー周回の時間だ。
おやつでも用意して優雅にやりますかな。
俺は台所の棚から食べかけのポテトチップスを取り出した。
そして冷蔵庫を覗くと、奥の方に何やら箱を見つけた。
「なんだこれ?」
開けてみると、生クリームとフルーツがのった豪華なパンケーキだった。
「姉ちゃんのか。こんなところに隠しやがって。ひとりで美味しい思いするつもりだったな?」
見つけた時点で食べないという選択肢はない。
こんなに豪華なパンケーキだ。ここは丁寧にナイフとフォークで食べることにしよう。
食器棚から客人用のちょっと高そうな皿とナイフ、フォークを取り出し俺はこたつに戻った。
「さーて、戦闘をオートで回しながら……俺は優雅にアフタヌーンティー♪」
紅茶は用意していないが……まあいいだろう。
ナイフとフォークを両手に持ちまして……いざ!
「いただきまーす!」
ぱくっ
うまい……!こう、フルーツが一つ一つ、お互いの味をかき消さない感じでフルーティー……!生クリームも舌がとろけるくらい滑らかだ……。そして、作ってから時間が経ってるはずなのにパンケーキがふわふわで……
語彙力がないので上手く言えないが、作ったパティシエに通りかかった人たちを巻き込んで拍手喝采を送りたいくらい素晴らしい。
それほどまでに美味しいのだから、当然あっという間に平らげてしまった。
「あら、いつの間にかパンケーキが目の前から消えてしまったわ。」
思わずお嬢様言葉になってしまう。それほどまでに満足するアフタヌーンティー(ティー抜き)だった。
一応持ってはきたものの、結局ポテトチップスは食べることなく、またしまわれる運命なのがかわいそうだ。
ご馳走様でした、と言い終わるくらいのタイミングで、玄関が開く音がした。
「ただいま〜」
姉ちゃんだ。その声を聞いてふとテーブルの上を見ると、そこには明らかに何かいいものを食べましたよ感のある、クリームがついたちょっと高そうな皿。
「これはまずいのでは? このままでは姉ちゃんのパンケーキを食べたことがバレてしまう……!」
俺は咄嗟に皿をこたつの中に隠した。
「あー!! 外寒すぎ! こたつこたつ〜……って冷たっ!」
まずい。姉ちゃんが入ったところにちょうど皿があったせいで足に当たってしまったみたいだ。寒いはずなのに汗が止まらない。
「何これ〜? 客人用の皿じゃない! なんでこんなところに……。まさかあんた……アレ食べたりしてないわよね……?」
脇汗がやばい。もう逃れることはできないのか。
俺もここまでか……。
「その反応は、食べたわね! あれ一日五個限定のパンケーキなのよ!? 頑張って朝早くから並んで買ってきたんだから! 仕事終わってから食べようと思ってたのに〜!」
「……。」
何も言えない。この姉は昔から怒ると怖いとわかっていたのに! なぜ食べてしまったんだ! 俺!!
「──ってきなさいよ……」
「え?」
「買ってきなさいよ! 明日朝一番に並んで買ってきなさいよ!! まだ夜も明けてないくらいの暗闇の中並んで買ってきなさいよ!」
ちょっと目がうるうるしている。流石の俺でも心が痛む。
仕方ない。買ってくるか──。
***
──というわけだ。
そんなわけで、今俺は暗闇の中ひとりで例のパンケーキが売り出されるケーキ屋に並んでいる。
「まだ誰も並んでないじゃないか……!」
流石にこの暗闇の中並ばせるのは嫌がらせだろ! と、食い物の恨みは恐ろしいと思う俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます