第5話
◇
旅はあっという間に終わった。魔王はそこまで強くなかった。
トドメを刺したのはトレムくんだ。そういうところも主人公にふさわしくて、なんだか冷めた目で見てしまった。
誰も欠けることがなく、生まれ育った村へ帰り着くことができた。私を見た途端、父や村人たちが駆け寄ってきた。
「お父様、魔王を倒すことができました」
「あぁ、よかった。みなさま、本当にありがとう、お疲れ様」
父がみんなへ挨拶をする。手を握り、頭を深々と下げて回る。
「娘が大変、世話になりました」と仲間に感謝する父を見て、頬が熱くなる。
「やめてよ、もう……」
「いやいや、村長さん。世話になったのはこちらですよ。アンヘラは誰よりも頑張ってくれていました」
口を開いたのはトレムくんだ。弾ける笑顔で語る彼に、父は心を奪われているようだった。
「君みたいな少年が、アンヘラにはお似合いだ」
その言葉に、トレムくんが動揺し、目を見開いて慌てふためいた。
「な、何言ってるんですか村長!」と首を横に振っているが、満更でもなさそうな気配に、思わずため息を漏らしそうになった。
ふと、視線を感じた。顔を上げると、そこには今にも祝福せんと言わんばかりの目で私を見る村人と仲間たちがいた。
その視線にゾッとした。鳥肌が立ち、寒気がした。
額から伝った汗が頬を流れる頃には、父も私を見ていることに気がついた。
トレムくんは頬を赤らめ、照れ臭そうに指先で鼻を掻いている。
チラリと私を見て、どうしようか? と言いたげだ。
「私、本当は……」
漏れ出た言葉は震えていた。口火を切ったのはいいものの、なんと続けていいか分からない。
みんなは、どんな言葉を望んでいるのだろう。
みんなは、どんな展開を望んでいるのだろう。
ヒロインは、こういう時どうすればいいのだろう。
そこで、違和感に気がつく。人々へ視線を投げると、先ほどとは全く違う目が向けられていた。
咎めるような、冷ややかな。有無を言わせぬ圧力をかけるような、そんな目。
矢の如く刺さる目は、父もトレムくんも、仲間たちもしていた。
まるでこの状況を拒むことは、大罪であるかのような反応である。
「本当は、トレムくんのことなんか好きじゃない」。続けそうになったこの言葉を飲み込み、私は頬を引き攣らせ「なんでもない」と無理に笑うしかなかった。
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