困った神の人頼み
たねありけ
困った神の人頼み
信仰は神の糧。神力が溜まれば子を成すのも道理である。
「……あー、マジでめんどくせぇ」
愚世(ぐぜ)は寝転がったまま視界の端で幼神(ようしん)を見た。アレはいつの間にかそこに座っていた。泣きもしないし声も出さない。動かない。静かだ。静かなのはいい。静かなものは、構わなくていい。
「勝手に生まれたんだからさぁ」
愚世はそう呟いて起き上がることもしなかった。いつも通り怠惰だった。
「ほら、これ」
愚世が指を動かすと光が飛び出し円環を成す。それは音もなく小さな泉となり、ぺたんと座った幼神の目の前へと添えられた。
八紘泉(はちこうせん)——世界の八紘を映す泉。だが映像は安定せず、しょっちゅう乱れる。ちょっと強い風が吹けば画面が停止し、雨が降れば何も映らなくなることも珍しくない。愚世はそれを気にしたことがなかった。
やがて愚世の知己である理心(りしん)が訪れた。愚世の神域を一望し、散らかった様子と幼神の姿を見て、顔を曇らせる。
「……愚世。新しき神の誕生を感じて来てみれば、これはあまりにも酷い」
「何が?」
「貴様、育てていないだろう」
「だって泣かないじゃん」
愚世は心底不思議そうに返す。不満があれば幼神も泣く。だから愚世は幼神を抱き上げもしない。八紘泉を覗き込む背中を見て「まあ、これなら静かだろ」と満足し、そのまま放っておいた。
「静かだし。危ないこともしてないし。ちゃんと見てるし」
「八紘泉を見せ過ぎれば情心を外に作ることになる。己が情で判断せぬ邪神になるぞ」
「大げさ。まだ幼神なんだからさ。今時、神育てじゃ Kamitter でもバズらねぇよ」
「貴様という奴は。今日という今日は詰めねば気がすまぬ!」
理心の声が強くなる。理と真心に基づいた言葉が次々と投げられる。責任、関わり、触れること。与えること。だが怠惰と惰性と斜心の神は途中から聞いていなかった。
「ほんと、めんどくせぇ……」
その間も、幼神は八紘泉を覗き込んでいた。己が信仰を見出すこと——それは神としての本能でもあったか。
——我が命に代えても——
——もう逃げないから——
——僕に信じる力を——
八紘泉は砂嵐に変わり、声だけが残る。また別の人間が映る。
幼神は瞬きもせず、ただ成神となるための信仰を探していた。
困った神の人頼み たねありけ @Penkokko
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