霧の迷宮へ――心を試す影

霧の谷の街ヴェイルで、第二の鍵片が影に奪われたことを知ったレオンたちは、

 長老セイランの案内で“霧の迷宮”の入口へ向かっていた。


 街の外れにある古い石橋を渡ると、

 そこには巨大な霧の壁が立ちはだかっていた。

 まるで生き物のように揺らめき、

 近づく者を拒むように冷たい気配を放っている。


「ここが……迷宮の入口?」

 ミナが息を呑む。


「ええ。霧の民でも、許可なく入ることはできない場所よ」

 ルミエが静かに答える。


 長老セイランは杖を掲げ、低く呟いた。


「霧よ、道を開け。

 蒼鍵の継承者が来た」


 霧が左右に割れ、

 奥へと続く細い道が現れた。


「レオン、ミナ、ルミエ。

 迷宮は“心”を映す場所だ。

 影は姿を変え、お前たちの弱さを突いてくる。

 決して惑わされるな」


 レオンは深く頷いた。


「行きます。

 鍵片を取り戻して、巫女も助ける」


 ミナも拳を握りしめる。


「私も……絶対に負けない」


 ルミエは二人を見つめ、

 静かに微笑んだ。


「行きましょう。

 霧の迷宮へ」


 三人は霧の中へ足を踏み入れた。


---


迷宮の第一層:記憶の回廊


 迷宮の中は、外よりもさらに濃い霧に包まれていた。

 足元は石畳だが、どこか歪んで見える。


「なんか……変な感じがする」

 ミナが不安そうに呟く。


「霧が“記憶”を映しているのよ」

 ルミエが説明する。


「記憶……?」


「迷宮は、入った者の心を覗く。

 恐れ、後悔、願い……

 それらが霧に形を与えるの」


 その時――

 霧の奥から、かすかな声が聞こえた。


『……レオン……』


「っ……まただ」

 レオンは眉をひそめる。


『守れなかった……

 また……失う……』


「やめろ……!」


 レオンの胸が痛む。

 影の囁きは、彼の心の奥にある“不安”を正確に突いてくる。


「レオン、大丈夫?」

 ミナが心配そうに覗き込む。


「平気だよ。

 ただ……ちょっと嫌な感じがするだけ」


 ミナはレオンの手を握った。


「大丈夫。

 私がいるから」


 その言葉に、レオンの胸が少し軽くなる。


 だが――

 ルミエは二人の様子を見て、胸の奥がざわついた。


(……また、この感情)


 自分でも理解できない。

 ただ、レオンがミナに向ける優しい眼差しを見るたび、

 胸が締めつけられる。


---


迷宮の第二層:幻影の庭


 霧が晴れると、そこには美しい庭園が広がっていた。

 花々が咲き乱れ、鳥の声が響く。


「わぁ……綺麗……」

 ミナが目を輝かせる。


「気をつけて。

 これは“幻”よ」

 ルミエが警告する。


 その瞬間、庭の奥から人影が現れた。


「……お父さん?」

 ミナが呟く。


 そこに立っていたのは、

 ミナの父親の姿をした“影”だった。


「ミナ……戻ってこい……

 危険な旅なんてやめるんだ……」


「ち、違う……お父さんじゃない……!」


 ミナは後ずさるが、影は優しい声で囁き続ける。


「ミナ……

 お前は弱い……

 影に触れたお前は……もう……」


「やめて!!」


 ミナの瞳に涙が浮かぶ。


「ミナ!」

 レオンが前に出る。


「ミナは弱くなんかない!

 僕が知ってるミナは……

 誰よりも強い!」


 その言葉に、ミナは息を呑んだ。


「レオン……」


 影が形を崩し、霧となって消えた。


 ミナはレオンの胸に飛び込む。


「ありがとう……

 私……怖かった……」


「大丈夫。

 僕がいるから」


 ルミエはその光景を見つめ、

 胸の奥が痛むのを感じた。


(……私は、どうしてこんな気持ちになるの?)


 守護者としての使命がある。

 感情に揺れるべきではない。

 そう分かっているのに――

 レオンがミナを抱きしめる姿を見ると、

 心がざわつく。


---


迷宮の第三層:影の門


 庭園を抜けると、巨大な黒い門が現れた。

 門には影の紋章が刻まれ、

 不気味な気配を放っている。


「ここが……鍵片がある場所?」

 レオンが尋ねる。


「ええ。

 影が鍵片を持ち去った先……

 “影の間”よ」


 ルミエが杖を構える。


「気をつけて。

 ここから先は、本物の影が出る」


 ミナはレオンの手を握り、

 小さく頷いた。


「行こう、レオン。

 私たちなら……きっと大丈夫」


「うん。

 絶対に鍵片を取り戻す」


 三人は黒い門を押し開けた。


 その奥には――

 深い闇が広がっていた。


 そして、闇の中心で、

 第二の鍵片が不気味な光を放っていた。


 その前に立つ影の姿が、

 ゆっくりとこちらを振り返る。


『……来たか……継承者……』


 影の声は低く、

 迷宮全体を震わせた。


「レオン、ミナ。

 ここからが本番よ」


 三人は構えを取り、

 影の間へと踏み込んだ。


 霧の迷宮の最深部で、

 第二の鍵片を巡る戦いが始まろうとしていた。

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蒼鍵の継承者ー影に呑まれた世界で、俺達は光を探すー @tantan284

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