霧の谷の街・ヴェイル
霧の谷の奥で現れた巨大な影の使いは、
レオンの蒼鍵の光に押し返されると、
低い唸り声を残して霧の中へ溶けるように消えていった。
静寂が戻る。
「……行った、のか?」
レオンは肩で息をしながら周囲を見渡した。
「完全に消えたわけじゃない。
あれは“探り”よ。
私たちの力を試したの」
ルミエの声は冷静だったが、わずかに緊張が残っていた。
ミナはレオンの腕を掴んだまま、震えを抑えようとしていた。
「レオン……ありがとう。
あのままだったら、私……」
「大丈夫。ミナは絶対に守るって決めたから」
その言葉に、ミナの頬が赤く染まる。
ルミエは二人の様子を見て、胸の奥がざわついたが、
すぐに表情を整えた。
「ここに長く留まるのは危険よ。
霧の谷には“街”がある。
そこまで行けば安全なはず」
「街……? こんな霧の中に?」
レオンが驚くと、ルミエは頷いた。
「霧の民が暮らす隠れ里よ。
外の世界から姿を隠すため、霧を操る術を持っているの」
「そんな人たちが……」
「ええ。第二の鍵片の手がかりも、そこにあるはず」
三人は再び歩き出した。
---
霧はさらに濃くなり、
足元すら見えないほどだった。
「ルミエさん……本当にこの先に街があるの?」
ミナが不安そうに尋ねる。
「大丈夫。霧の流れが変わってきているわ。
もうすぐ“結界”に触れるはず」
ルミエがそう言った瞬間――
霧の中に淡い光が浮かび上がった。
「……あれは?」
「霧の灯(ともしび)よ。
街の入口を示す光」
光はふわりと漂い、三人を導くように進んでいく。
その後を追うと、霧が左右に割れ、
まるで幕が開くように視界が広がった。
そこには――
霧に包まれた幻想的な街が広がっていた。
---
霧の谷の街・ヴェイル
木造の家々が霧の中に浮かぶように並び、
街灯の代わりに霧の灯が漂っている。
人々は白い外套をまとい、
静かに街を行き交っていた。
「すごい……こんな場所があったなんて」
ミナは目を輝かせた。
「ここが“ヴェイル”。
霧の民が暮らす街よ」
ルミエが説明する。
レオンは街の空気を吸い込み、
胸の奥に微かなざわつきを感じた。
(……何かがいる)
蒼鍵が、かすかに脈打っている。
「レオン、どうしたの?」
ミナが覗き込む。
「いや……なんでもない。
でも、この街……何か隠してる気がする」
「鋭いわね」
ルミエが小さく微笑んだ。
「霧の民は外の者を警戒する。
特に“影”が動き始めてからは、なおさら」
その時――
街の奥から複数の足音が近づいてきた。
「止まれ!」
白い外套をまとった男たちが、
三人を取り囲むように立ちはだかった。
「外の者が霧の結界を越えるとは……
何者だ?」
レオンが答えようとした瞬間、
ルミエが一歩前に出た。
「私たちは旅の者。
霧の谷の長に会いたいの」
「長に……?
理由を聞こう」
「影の気配が強まっている。
この谷も例外ではないはずよ」
男たちは顔を見合わせた。
その表情には、わずかな動揺が見えた。
「……ついてこい。
長老が判断する」
三人は街の中心へと案内された。
---
街の中央には大きな霧の塔がそびえていた。
塔の内部は白い光に満ち、
霧がゆっくりと渦を巻いている。
「ここが……霧の塔」
ルミエが呟く。
「この塔が、街を守っているの?」
ミナが尋ねる。
「ええ。霧の民の魔力が集まる場所よ」
塔の奥に進むと、
白髪の老人が静かに座っていた。
「よく来たな、外の者よ。
わしがヴェイルの長老、セイランだ」
長老は三人を見つめ、
特にレオンの胸元に視線を止めた。
「その光……蒼鍵か」
「知っているんですか?」
レオンが驚く。
「もちろんだ。
蒼鍵は古代より伝わる“封印の鍵”。
虚無竜ヴォイドを縛る唯一の力……」
長老の声は重く、
街全体に響くようだった。
「そして――
第二の鍵片は、このヴェイルにある」
三人は息を呑んだ。
「やっぱり……!」
ミナが声を上げる。
「だが、問題がある」
長老は目を閉じ、深く息を吐いた。
「鍵片は“霧の巫女”が守っていた。
しかし……三日前、影に奪われたのだ」
「影に……!」
レオンの拳が震える。
「巫女は無事なの?」
ミナが尋ねる。
「命は助かったが、影の呪いを受けて眠ったままだ。
鍵片は“霧の迷宮”へと持ち去られた」
ルミエが表情を引き締める。
「霧の迷宮……
影が潜むには最適の場所ね」
「レオン」
長老がレオンを見つめる。
「蒼鍵の継承者よ。
迷宮に入り、鍵片を取り戻してほしい。
この街も……世界も……
もはや影の侵食に耐えられぬ」
レオンは迷わず頷いた。
「行きます。
鍵片を取り戻して、巫女も助けます」
ミナも拳を握りしめた。
「私も行く!
影の気配なら、私が感じ取れる!」
ルミエは二人を見て、
静かに微笑んだ。
「なら、決まりね。
霧の迷宮へ向かいましょう」
長老は杖を突き、立ち上がった。
「気をつけよ。
迷宮は“心”を試す場所。
影は姿を変え、囁き、惑わせる。
お前たちの絆が試されるだろう」
三人は互いに視線を交わした。
レオンはミナの手を握り、
ルミエは静かに二人の背中を見守る。
霧の谷の街ヴェイル。
ここから、三人の旅は新たな局面へと進む。
そして――
霧の迷宮の奥では、
影が静かに彼らを待ち受けていた。
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