影の残滓と少女の願い
地下室に満ちていた蒼い光がゆっくりと消えていくと、レオンはその場に膝をついた。
胸の奥に吸い込まれた鍵片が、脈打つように微かな熱を放っている。
「レオン、大丈夫?」
ミナが心配そうに覗き込む。
「ああ……ちょっと疲れただけ」
レオンは苦笑しながら立ち上がった。
影の眷属は完全に消えたはずだった。
だが、地下室の隅に黒い染みのようなものが残っているのが見えた。
「……まだ残ってるのか?」
「影の“残滓”よ」
ルミエが近づき、慎重に観察する。
「倒したように見えても、虚無の力は完全には消えない。
放っておけば、また形を成す可能性があるわ」
「じゃあ、どうすれば……」
「蒼鍵の力で浄化するしかない」
レオンは息を呑んだ。
先ほどの戦いで、蒼鍵を使うことがどれほど体力を消耗するか思い知ったばかりだ。
「でも、やらなきゃいけないんだよな」
「ええ。あなたにしかできない」
レオンは残滓に手をかざし、胸の奥に意識を集中させた。
蒼鍵が応えるように光を放ち、黒い染みは蒼い炎に包まれて消えていく。
浄化が終わると、レオンは大きく息を吐いた。
「……これで全部か」
「ええ。よく頑張ったわ」
ルミエの言葉に、レオンは少し照れくさくなった。
ミナは胸に手を当て、深く頭を下げた。
「本当にありがとう。
あなたたちが来てくれなかったら、村は……私も……」
「気にしないで。僕はただ……目の前の人を助けたかっただけだから」
レオンの言葉に、ミナは少し頬を赤らめた。
「……優しいのね、レオン」
その時、地上から複数の足音が聞こえてきた。
「ミナ! 無事か!」
「ミナちゃん!」
村人たちが駆け込んできた。
影の脅威が消えたことで、ようやく外に出られるようになったのだろう。
「お父さん、お母さん……!」
ミナは両親に抱きしめられ、涙をこぼした。
村人たちはレオンとルミエに深く頭を下げた。
「本当に……ありがとう」
「あなたたちがいなければ、村は滅んでいた」
レオンは少し戸惑いながらも、笑顔で頷いた。
「僕たちは旅の途中なんだ。
困っている人がいたら、助けるのは当然だよ」
その言葉に、ルミエは横目でレオンを見て、微笑んだ。
「あなたは本当に……継承者にふさわしいわ」
村人たちはレオンたちを家に招き、温かい食事を振る舞った。
久しぶりに落ち着いた空気が村に戻りつつあった。
食事の後、ミナがレオンのもとにやってきた。
「レオン……お願いがあるの」
「お願い?」
ミナは真剣な表情で言った。
「私も……あなたたちと一緒に行きたい」
「えっ?」
「影はまた現れるかもしれない。
村を守るためにも、鍵片のことをもっと知りたい。
それに……あなたたちの力になりたいの」
レオンは言葉に詰まった。
ミナは勇気のある少女だ。
だが、旅は危険だらけだ。
「ミナ……危険なんだ。僕たちの旅は――」
「分かってる。でも、ここにいても同じよ。
影は鍵片を狙ってる。
村に鍵片があった以上、また襲われる可能性はある」
ミナの瞳には強い意志が宿っていた。
ルミエが静かに口を開く。
「レオン。ミナの言う通りよ。
鍵片の影響を受けた村は、しばらく不安定になる。
彼女が同行することで、鍵片の残滓を感じ取れるかもしれない」
「そんなことが……?」
「ええ。彼女は影に触れた。
その経験は、無駄にはならないわ」
レオンはミナを見つめた。
彼女は怯えているわけではない。
むしろ、前に進もうとしている。
「……分かった。
一緒に来てくれ、ミナ」
「本当に……いいの?」
「うん。僕たちの旅は、きっと君の力も必要になる」
ミナは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、レオン。
私、絶対に役に立つから!」
こうして、レオンたちの旅に新たな仲間が加わった。
だが――
その夜、村の外れで黒い霧が蠢いていることを、誰も知らなかった。
影は消えていない。
むしろ、より深く、より強く世界へ侵食を始めていた。
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