第2話 現実は残酷で
『ね、見てよこの制服っ!!可愛くない??』
いつもの集合場所。
いつもの時間。
待ち合わせる相手も同じ。
ただいつもと異なるのは中学時代のセーラー服ではなく、真新しいブレザー。
ぴょこぴょこと動くたびに胸元の赤いリボンが揺れ、女子高生らしい少し短めのスカートが風になびく。
そして、校則に引っかからない程度の淡いメイクがそれらと相乗効果を発揮する。
『……あ、あぁ』
毎日のように顔を合わせていたはずなのに、どうしてか俺は朱里の顔を直視することができなかった。
太陽のように明るいその笑顔は、俺にはあまりにも眩しすぎた。
『もう。もう少し気の利いたことは言えないわけ??そんなんじゃ彼女いつまで経ってもできないぞ~??』
そうだ。すでにあの時から始まっていたんだ。
俺のなんとも無様な初恋は―
■
お互いの家は徒歩一分圏内。
歳は同じで、同じ小学校に通うとなれば一緒に登下校する仲にならない方がおかしいだろう。
そんな漫画みたいな導入から俺たちの関係は始まり、月日が流れること早十年近く。
小学生でのモテ基準“足が速い”は当時クリアしていたものの、中学高校に進学すればそんなおままごとの恋愛は消え失せる。
イケメン、部活のエース、全国大会出場の立役者。
容姿端麗、スタイルがいい、分け隔てなく接してくれる。
男女関係なく、その時々に応じてモテる基準なんて変化していく。
そして常にそこに居続けられる素質がある、またはその努力を怠らなかったものだけが勝ち組へと昇格する。
いたって勝ち負けが分かりやすいシンプルなレースだが、その裏のやり取りや感情の起伏は、到底きれいごとだけでは終わらない。
同じ人を好きになって、お互いを貶めあったり。
相手の気持ちを理解できず、自分よがりな行動をとり続けてストレスが爆発したり。
―ずっと抱えていた純粋な想いがたった数秒で粉々にされたりも、もちろんあるわけで。
「あ……かり……」
これが現実だと認識するまでにはさほど時間はかからなかった。
誠也が俺の左肩を強く掴んで、窓から身を乗り出していた俺の体を勢いよく引っ張った。
「おい、落ちたいのかっ」
「え……ああ。すまん……ありがとう」
「少し落ち着け」
「……これが落ちついていられると思うのか」
「気持ちはわか―」
「お前に何がわかるってんだよっ!!」
俺は誠也の胸倉をカッとなって掴んだ。
でも顔は見れない。見た瞬間、俺が現実にいるんだと思ってしまいそうだったから。
何も見なければ、そこはまだ夢の世界だと信じられそうだったから。
どうして―
「……好きな人が他の男と一緒に歩いているところを見て―」
―素直に諦められる。
頭ではわかっている。
恋愛に過ごした時間の大小は関係ない。
お互いが好きになれば、そんな薄っぺらな壁なんていくらでも蹴破れることぐらい。
それでも―
ずっと抱え続けたこの想いは決して誰にも邪魔されたくなかった。
せめて―せめて潔く振られてからの方が、まだましだった。
でも、現実はそうじゃない。
「……お前の気持ちをしっかりと汲まなかったことは謝る。あとで殴られてもいい。ただな、ここで暴れるのだけはやめろ。そこにいる相川さんにも、あとこの教室にいるやつらにも迷惑だ」
そう言われてハッとした。
俺が誠也の胸倉を掴んでいたが、その真横には相川さんがいるんだった。
誠也を投げ飛ばしたりすれば間違いなく彼女にも被害が及ぶ。
ふと目を向けてみると、急に不穏な空気が立ち込めたからか文庫本を閉じ、椅子を俺たちから離して怯えた表情でこちらを見ていた。
初対面の男子高生が近くで暴れられたらこんな風になってしまうのも無理ない。
そして、それはこの教室にいる全員にも波及し、全員が何事かと俺たちに視線を向けていた。
「……すまん。一旦、頭冷やしてくる」
「……そうしろ」
「……式後のホームルームまでには戻る。それまでは適当に言っといてくれ」
「ああ」
情けない。
たった一人の大切な幼馴染を失うだけではなく、これから共に過ごすクラスメイトにも迷惑を振りまいて。
本当に、俺という人間は―
最低だ。
そうつくづく思いながら、俺は一組の教室を静かに出て行った。
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