第7話 ダンジョンボス戦

――殴れ、生きるために


最深部は、円形の虚無だった。


壁も床も、境界が曖昧。

まるで“穴そのもの”が、生きている。


中央に立つのは――

影が、形を持った存在。


人型に近いが、関節は歪み、

全身が黒い靄で覆われている。


胸の中央に、

白く脈打つ核。


《ダンジョンボス》

《名称:穴守り(ホール・ガーディアン)》

《特性:再生・吸収・精神侵食》


「核……か」


一真は、深く息を吸う。


逃げ場は、ない。

引き返す道も、消えている。


「上等だ」


一歩、踏み出した瞬間。


空間が、歪んだ。


床が、消え、

重力が、横に流れる。


「――っ!」


体が、引きずられる。


壁に、叩きつけられる寸前――

一真は、拳を空間そのものに叩き込んだ。


《衝撃変換:空間干渉》


歪みが、弾ける。


「……効く、のかよ」


だが、次の瞬間。


影が、分裂した。


三体。

いや、五体。


「数で来るか!」


一真は、走った。


殴る。

避ける。

踏み込む。


拳が、影を砕く。


だが――

砕いたそばから、再生する。


《吸収開始》


足元から、影が伸びる。


捕まる。


「っ……!」


生命力が、吸われる。


視界が、暗くなる。


《覚醒魔法:生存闘争 発動》

《段階:第二》


心拍が、跳ね上がる。


痛みが、遠のく。


世界が、研ぎ澄まされる。


「……来い」


一真は、自ら影の中へ踏み込んだ。


拳を、叩き込む。


核へ。


だが――

防がれた。


影が、盾のように集まる。


「甘い……!」


一真は、自分の体を投げた。


影に、貫かれる。


腹部。


血が、溢れる。


《致死判定》

《覚醒魔法:段階第三》


限界を、越える。


体が、軽い。


一真は、影の内側で、拳を振り抜いた。


《衝撃変換:内部臓壊》


核が、砕けた。


光が、爆発する。


影が、悲鳴を上げ――

消滅した。


静寂。


一真は、地面に崩れ落ちる。


息が、できない。


視界が、白い。


《ダンジョンボス討伐》

《ダンジョン完全制覇》

《覚醒魔法:完全定着》

《新称号獲得:穴を殴り潰した者》


「……変な……称号だな……」


一真は、笑った。


血の味が、する。


だが――

まだ、生きている。


《ダンジョン崩壊を開始します》


床が、崩れる。


空間が、歪む。


脱出


光。


次に目を開けた時――

そこは、山の外だった。


ダンジョンのあった場所は、

跡形もなく消えている。


「……終わった、か」


だが――

遠くから、人の声が聞こえた。


複数。


武器の音。


「……次は、人間、か」


一真は、拳を握る。

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『死に損なった少年は、異世界で生き直す』 よし @tyokottoyosi

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