第6話 初ダンジョン――《還らずの穴》

それは、地面にぽっかりと空いた穴だった。


山の中腹。

木々が避けるように生え、

獣の足跡すら、途中で途切れている。


「……嫌な名前だな」


一真の視界に、文字が浮かぶ。


《ダンジョンを確認》

《名称:還らずの穴》

《階層:不明》

《内部制限:視覚・魔力干渉》


「不明、ね」


息を整え、一歩踏み出す。


地面が、沈む。


次の瞬間――

世界が、反転した。


第一層

闇は、音で殺しに来る


光が、ない。


完全な闇。


だが――

耳が、異様に冴えている。


水滴の音。

遠くの、擦れる音。

何かが、這う音。


「……視覚制限か」


一真は、拳を軽く鳴らす。


《環境補正発生》

《戦闘直感:感覚補正》


(見えなくても……分かる)


背後。


一瞬の“違和感”。


一真は、振り向きざまに拳を振るった。


グシャッ。


柔らかい感触。

潰れた“何か”。


地面に、黒い液体が飛び散る。


《影喰い》撃破


「数で来るタイプか……」


音が、増える。


四方八方。


一真は、動かない。


来るものだけ、殴る。


左。

右。

後ろ。

上。


拳が、闇を裂く。


だが――

不意に、音が消えた。


「……?」


その瞬間。


――ズルッ。


足元が、消えた。


第二層

床が、敵になる


落下。


数秒。

だが、長く感じた。


着地。


衝撃を、手甲が吸収する。


「……罠、か」


周囲は、薄暗い。


床一面に、幾何学模様。


一歩踏み出した瞬間――


床が、刃に変わる。


「っ!」


跳躍。

紙一重で回避。


(踏んだら死ぬ……!)


だが、止まれない。


天井から、落下型魔物が降ってくる。


「面倒だな!」


一真は、床を殴った。


《衝撃変換:地形反映》


拳の衝撃が、床全体へ波紋のように広がる。


刃が、弾かれ、魔物が、宙で砕ける。


「……使えるな」


だが――

床の模様が、変化した。


《警告》

《階層適応:進行中》


「学習型かよ……」


一真は、歯を食いしばる。


第三層

心を折る場所


空間が、歪む。


次の瞬間――

病室だった。


白い天井。

点滴の音。


「……っ」


体が、重い。


動かない。


ベッドの上。


《精神干渉を確認》


母の声。


「一真……もう、休もう……」


医者の声。


「延命は、ここまでです」


胸が、締めつけられる。


(違う……)


拳を、握れ。


動け。


(俺は……)


「――死んだ!」


一真は、叫んだ。


「そして、生き直してる!」


拳を、振り上げる。


病室が、砕け散る。


《精神耐性:上昇》

《覚醒魔法:安定化》


膝をつく。


息が、荒い。


だが――

折れていない。


最深部

ボス部屋


扉は、なかった。


空間の中央に、

巨大な影が蠢く。


《ダンジョンボスを確認》

《名称:穴守り(ホール・ガーディアン)》


「……来い」


一真は、拳を構えた。


これは、

殴らなければ進めないダンジョン。


そして――

殴り続けられた者だけが、生き残る。


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