第4話 ボス級魔物――《灰喰らいの巨獣》

森の奥は、明らかに異質だった。


木々は倒れ、

地面は抉れ、

空気そのものが、重い。


「……さっきのは、前座か」


一真は、自然と拳を握り締めていた。


足元に散らばるのは、砕けた骨。

獣のものだけじゃない。

人の骨も、混じっている。


その瞬間――

地鳴りが、来た。


ドン……

ドン……

ドン……


心臓の鼓動と、同じリズム。


「来るな……」


だが、逃げるという選択は、頭に浮かばなかった。


地面が盛り上がり、

森が、割れた。


姿を現したのは――

熊を遥かに超える巨体。


全高四メートル。

灰色の毛皮は、石のように硬く、

背中には、骨の突起が林立している。


口から垂れる唾液が、地面を溶かしていた。


四つの目が、同時に一真を捉える。


《ボス級魔物を確認》

《名称:灰喰らいの巨獣(アッシュ・デヴァウラー)》

《脅威度:高》

《推奨:撤退》


「……撤退、ね」


一真は、乾いた笑みを浮かべた。


「悪いけどさ」


一歩、前へ。


「俺、死んだことあるんだ」


その言葉と同時に、巨獣が吠えた。


音圧だけで、木々が折れる。


「――っ!」


衝撃が、内臓を揺さぶる。

一瞬、意識が白くなる。


(立て……!)


足に力を込める。

逃げない。

逃げないと、決めた。


巨獣の前脚が、振り下ろされる。


地面が、爆ぜた。


回避が、間に合わない。


一真は、真正面から受けた。


「ぐっ――!」


体が宙を舞い、

木に叩きつけられる。


肋骨が、折れた感覚。

肺から、空気が抜ける。


視界が、暗くなる。


《致命的損傷》

《自己修復:最大出力》

《警告:負荷過多》


(……ああ)


病室の天井が、脳裏に浮かぶ。


動けなかった体。

息をするだけで、苦しかった夜。


「……違う」


一真は、血を吐きながら、立ち上がった。


「今は、動ける!」


修復が追いつかない。

骨が、完全には戻らない。


だが――

それでいい。


一真は、魔力を意識した。


《魔力操作・基礎》

まだ、未熟。

それでも――


「集まれ……!」


両腕に、熱が集中する。


巨獣が、突進してくる。

逃げ場は、ない。


「今だ!」


地面を蹴り、

真正面から、跳んだ。


《戦闘直感:極限発動》


世界が、遅くなる。


見える。

巨獣の動き。

呼吸。

重心。


(首……じゃない)


骨で覆われている。

硬すぎる。


(腹……?)


否。


――口の中だ。


「――らぁぁぁ!!」


一真は、巨獣の顎に足を掛け、強引に、口をこじ開ける。


腐臭と熱風。


喉の奥、赤く脈打つ“核”。


「喰らえ!」


両拳に集めた魔力を、直接叩き込んだ。


光が、爆ぜる。


世界が、静止したように見えた。


次の瞬間――


巨獣の体が、内側から爆発した。


灰と血が、雨のように降り注ぐ。


一真は、地面に転がり、動かなくなった。


《ボス討伐成功》

《大量経験値を獲得》

《称号獲得:死を越えた者》

《スキル進化発生》


意識が、遠のく。


だが、今回は――

完全には、沈まなかった。


「……は……生きてる、な」


空は、まだ青い。


病室じゃない。

終わりじゃない。

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