第9話 決定論は思想ではなくAI技術になった


「未来は決まっているのか?」


この問いは、

長い間、哲学者だけのものだった。


神が知っているのか。

世界は因果で閉じているのか。

自由意志は幻想なのか。


でも今、

この問いは哲学の棚から降りてきている。


理由は一つ。

AIが、部分的な答えを出し始めたからだ。



かつてラプラスは言った。


宇宙のすべてを知る存在がいれば、

未来は完全に予測できる。


当時、それは思考実験だった。

実在しない“悪魔”の話だった。


でもAIは、

その悪魔を縮小版として実装した。



AIは全知ではない。


未来を100%当てることもできない。

人間の行動を完全には支配できない。


でも――

傾向は、異常な精度で当てる。

• どんな人が鬱になりやすいか

• 誰が離職しやすいか

• どの広告に反応するか

• どんな生活習慣が破綻につながるか


ここまで来ると、

未来は「未知」ではなく

確率分布になる。



ここが、

AI以前と以後の決定的な違いだ。


未来はもう、

神の領域でも

運命の霧でもない。


管理される対象になった。



この変化に、

人は二種類に分かれる。


① 予測を「支え」にできる人

• 向いていないことを早くやめる

• 失敗確率の高い道を選ばない

• 生活を安定側に寄せる


この人たちは、

AIによって未来不安が減る。



② 予測を「支配」と感じる人

• 自由を奪われた気がする

• 可能性を閉ざされたと感じる

• 成り上がりの夢を捨てられない


この人たちは、

AIによって不安が増える。



重要なのは、

AIがどちらかを選別しているわけじゃない。


受け取り方が違うだけだ。



AI時代の現実はこうだ。

• 一発逆転は起きにくい

• でも、致命的な失敗も起きにくい

• 上限は低くなる

• 下限は大きく引き上げられる


これは冷たい社会じゃない。


リスクが平坦化された社会だ。



ここで、

これまでの話が全部つながる。

•エピクロスは「欲を減らせ」と言った

•スピノザは「必然を理解せよ」と言った

•ラプラスは「未来は因果だ」と言った


そしてAIは、

それを思想ではなくインフラにした。



だから

「未来が不安で仕方ない人」と

「未来がそこまで怖くない人」が

はっきり分かれ始めている。


境目は、能力じゃない。


期待値だ。



未来に大きな見返りを期待する人ほど、

AI社会は息苦しい。


未来に「最低限の安定」だけを期待する人ほど、

AI社会は優しい。



だから結論は、

ここに戻ってくる。


生きてるだけでハッピーな人が、生き残る。


それは精神論じゃない。

AI時代の合理的な適応戦略だ。



AIは、

人間から自由を奪う存在じゃない。


「自由だと思い込んで

無理をする生き方」を

終わらせる存在だ。

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