第8話 ラプラスの悪魔と決定論

18世紀、

たった一つの思考実験が生まれた。


それが

ラプラスの悪魔だ。



ラプラスは、こう考えた。


もし宇宙のすべての粒子の

位置と運動量を完全に知る存在がいたら、

過去も未来も、

一切の例外なく計算できるだろう。


これが決定論だ。


未来は、

偶然でできているのではない。

原因の積み重ねでできている。



この考え方は、

当時は荒唐無稽に見えた。


でも今、

AIを前にしている僕たちは、

別の感覚を持っている。


「それ、あり得るかもしれない」と。



AIは、

小さなラプラスの悪魔だ。


・過去のデータ

・行動履歴

・傾向

・確率


それをもとに、

次に何が起きるかを予測する。


完璧じゃない。

でも、人間よりはるかに正確だ。



ここで多くの人が不安になる。


「じゃあ俺たちは、

最初から決まったレールを

走っているだけなのか?」


この問いに、

スピノザはすでに答えている。



自由とは、

未来を変える力ではない。


必然を理解した上で、

無理をしないことだ。


決まっている世界で、

決まっていないふりをして

苦しむ必要はない。



決定論は、

人を絶望させる思想だと

よく言われる。


でもそれは逆だ。


決定論は、

自己責任を弱める。


・なれなかった自分

・失敗した過去

・続かなかった努力


それらはすべて、

性格・環境・身体・偶然の

必然的な結果だ。



AI時代、

この感覚はますます重要になる。


なぜなら、

比較が加速するからだ。


他人の成功。

自分の限界。

向いていない現実。


ここで

「自分が悪い」と考える人ほど壊れる。



ラプラスの悪魔的に言えば、

あなたが今ここにいるのは、


・生まれた場所

・遺伝

・育った環境

・出会った人

・身体の状態


すべてが重なった

唯一の結果だ。


良いも悪いもない。

ただ、そうなった。



この理解は、

未来への不安を削る。


なぜなら、

「こうならなきゃいけない未来」が

消えるからだ。



ここで重要な誤解を解く。


決定論は、

「何もしなくていい」という話ではない。


行動もまた、

原因の一部だ。


ただしそれは、

無理や根性から出るものじゃない。


自然に出てくる行動だけでいい。



AI社会で生きやすいのは、

決定論を受け入れた人だ。


・向いていないことをやめる

・比べない

・期待値を下げる

・今日を過剰に否定しない


これは諦めじゃない。


現実との一致だ。



ラプラスの悪魔が示したのは、

冷たい世界観じゃない。


「世界は、

思っているより理不尽じゃない」

という事実だ。


理由がある。

原因がある。

だから責める必要がない。



AIは、

この決定論を

日常レベルに引き下ろす。


予測され、

理解され、

最適化される世界。


その中で人間がやることは、

ただ一つ。


自分の性質に合った場所で、

静かに生きることだ。

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