第7話 AI時代に相性が良い哲学者②スピノザ

2人目にはスピノザにしよう。

スピノザは、

たぶん史上もっとも誤解されている哲学者だ。


彼は「自由」を語った。

でもそれは、

好き勝手に生きる自由ではない。


むしろ、

自由意志を否定した哲学者だ。



スピノザは言う。


人間は、自分が自由だと思っているだけで、

実際にはすべての行為に原因がある。


感情も、

思考も、

選択も。


偶然ではない。

必然だ。



この考え方、

AI時代と驚くほど一致している。


AIはこう振る舞う。


・入力があれば

・必ず出力がある

・気分や気合は関係ない


人間も、本質的には同じだと

スピノザは言った。



ここで多くの人は不安になる。


「じゃあ自由はないのか?」

「努力に意味はないのか?」


でもスピノザは、

そこから一段深いところに行く。



スピノザにとって自由とは、


原因を理解している状態だ。


怒りが湧いたとき、

それを「悪」と断罪するのではなく、


・なぜ怒ったのか

・どんな原因があったのか

・どうすれば減らせるのか


これを理解している人は、

感情に振り回されない。



AIは、

この「理解」を補助する。


感情のパターン。

思考の癖。

行動の結果。


可視化され、

予測できるようになる。


つまりAIは、

スピノザ的自由を拡張する装置だ。



スピノザは、

感情を善悪で分けなかった。


彼は言う。


感情は、

我々の行為能力を

高めるか、下げるかで判断される。


不安は悪ではない。

行動力を下げるなら問題なだけだ。


野心も悪ではない。

自分を破壊するなら不適切なだけだ。



AI社会では、

この基準がはっきりする。


・疲弊する選択

・依存を生む行動

・比較で消耗する関係


これらはすべて、

行為能力を下げる。


だから、

“自由じゃない”。



スピノザにとって、

幸福とは感情の高揚ではない。


安定した自己一致だ。


自分の性質を理解し、

それに逆らわず、

無理をしない。



ここで、

エピクロスとつながる。


エピクロスは

「欲を減らせ」と言った。


スピノザは

「自分を理解せよ」と言った。


どちらも、

未来不安を根本から切る思想だ。



AI時代の不安の正体は、

「自分が制御不能になること」だ。


仕事を失うかもしれない。

社会から外れるかもしれない。

役に立たなくなるかもしれない。


でもスピノザは言う。


自然の一部である限り、

人間は無意味にならない。


役割が変わるだけだ。



AIが人間を追い越しても、

それは敗北じゃない。


自然の必然的な展開だ。


それを理解できた人から、

不安は消えていく。



スピノザ的に見れば、

未来への不安とは、


「理解できていない状態」

そのものだ。


だから必要なのは、

希望でも、根性でもない。


理解だ。



AIは、

人間から自由を奪わない。


理解を通じて、

幻想としての自由を壊し、

現実的な自由を与える。


スピノザが

300年前に描いた世界が、

今、技術で実装され始めている。

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