第6話 AI時代と相性が良い哲学者①エピクロス

まず1人目はエピクロスだ。

彼が求めたのは、


・飢えないこと

・寒さや痛みがないこと

・恐怖に支配されないこと

・静かな人間関係


それだけだった。


豪邸も、名声も、勝利も、

エピクロスにとっては不要どころか有害だった。


なぜならそれらは、

必ず「失う不安」を連れてくるからだ。



ここで、AI社会の話に戻る。


AIが進むと、

人間はこう言われ続ける。


「もっとできるはずだ」

「まだ上がある」

「成長しろ」


でもエピクロスは、

真逆の方向を向いている。


すでに満たされているなら、

それ以上を求める理由はない。



AIは、生存の下限を引き上げる。


医療。

福祉。

情報。

孤独の緩和。


つまり、

エピクロスが理想とした最低条件を

技術が勝手に整えていく。


これは偶然じゃない。



エピクロス哲学の核心は、

「足るを知る」ではない。


**「これ以上いらないと判断できる力」**だ。


AI社会では、

この能力の価値が爆発的に上がる。


なぜなら、

選択肢が無限になるからだ。



人は、選択肢が増えるほど不幸になる。


どれを選んでも、

「もっと良いものがあったかもしれない」と思う。


エピクロスは、

この状態をすでに見抜いていた。


だから彼は言う。


欲望は三つに分けられる。

自然で必要なもの

自然だが不要なもの

不自然で不要なもの


幸福なのは、

一番目だけを満たす人間だ。



AIは、

二番目と三番目を無限に提示してくる。


より快適に。

より速く。

より目立つように。


でもそれに全部応える人は、

永遠に満たされない。



エピクロス的に正しいAIとの付き合い方は、

こうだ。


AIは使う。

でも、競争には使わない。


AIは便利にする。

でも、承認を得るためには使わない。


AIは未来を安定させる。

でも、野心を煽らせない。



エピクロスは、

国家にも期待しなかった。


政治は人を不安にする。

権力は欲望を増やす。


だから彼は、

小さな共同体で

静かに生きることを選んだ。


これも、

未来にそのまま重なる。



AI時代の共同体は、

国家でも会社でもない。


・趣味

・思想

・創作

・一時的なつながり


軽く、離脱可能な関係だ。


エピクロスの庭園と、

本質的に同じ構造をしている。



エピクロスは言う。


死は、我々にとって何ものでもない。


死んだあとは、

感じる主体がない。


だから恐れる必要がない。


この死生観も、

AI社会と相性がいい。



未来が不安なのは、

死が怖いからじゃない。


生きている間に、

満たされないことが怖いからだ。


でもエピクロスは、

満たす量を最小化した。


だから、

未来を恐れなかった。



AIが進むほど、

エピクロスは正しくなる。


競争しない者。

欲を増やさない者。

静かに満足できる者。


生きてるだけでハッピーな人。


それが、

エピクロスが二千年前に描いた

理想の人間像だ。

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