第37話「黄昏の裂け目」

 日が沈む直前、荒野の黄土は深紅に変わり、足元の砂が軋む音だけが響く。

 風が巻き上がり、岩柱の影が長く伸びて揺れる。


 ノアが砂を蹴りながら、丘の向こうを指差した。

「兄ちゃん……あそこ、変な影がある」


 視線を追うと、黒い獣のような影が二体、岩柱の間に潜んでいた。

 姿は半透明で、脚は蜘蛛のように関節が歪み、牙は長く光を反射している。

 全身からはわずかに黒煙のような霧が立ち上り、荒野の風に揺られて形を変えていた。


 リィナが小さく息を吐く。

「……魔物、なの?」


「獣でも霊でも……どっちでもいい。動きに注意」

 ハルドが剣を握り直す。

 古の英雄がかつて振るった剣が、わずかに振動して俺の手に伝わる。


 敵は一体が砂を蹴り上げながら、低く唸るような声を発した。

 もう一体は地面に伏せ、砂に紛れるように姿を潜めたまま、こちらをじっと見つめる。

 目は赤く光り、荒野の赤に溶け込んでいるが、確実にこちらを追っている。


 俺は剣を抜く。赤の炎を刃に纏わせ、金の風で振り速度を補助する。

 リィナは光の刃を小さく展開し、ノアが光の盾を地面に生成して足場を安定させる。


 一体が突然跳ね、砂を舞い上げて襲いかかる。

 脚が異様に長く、跳躍力は人間の何倍もあり、腕の関節が不規則に折れ曲がっている。

 俺は間一髪で剣を振り、炎で肉体を炙る。跳ね返る衝撃で砂煙が舞い上がった。


 もう一体が、砂に潜って別角度から襲いかかる。

 ノアが光の盾で防ぎ、リィナが光の刃で押し返す。

 荒野の静けさと緊張が交互に訪れ、心臓が跳ねる。


 数秒の間に敵は姿を変え、半透明の脚が砂を割って伸び、牙が光る。

 しかし、強引に叩き潰すよりも、俺たちは連携で距離を作る。

 砂煙の中で敵は再び沈み、影のように荒野に溶けていった。


 リィナが足元の砂を払う。

「……まだいるのね」


 ノアは笑うように小さく声を上げる。

「面白いね、兄ちゃん。逃げるだけでこんなにワクワクするなんて」


 俺は剣を肩に担ぎ、遠くの岩裂け目を見据える。

 黒い影は見えなくなったが、砂と光の揺れが“視線”を残している。

 荒野の奥、黄昏の裂け目が次の試練を静かに示していた。

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Ark Fantasy 門 勇 @monyou

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