第36話「静かなる荒野」

 草原を抜けると、視界が開け、広大な荒野が広がった。

 地平線まで続く砂色の大地に、ぽつりぽつりと奇怪な岩柱が立っている。

 空は薄紫に染まり、夕日の光が岩に反射して不思議な模様を描く。


 リィナは小走りに駆け出し、風を受けながら笑った。

「見て、ノア! あそこ!」

 ノアは岩柱の間で揺れる影を指さす。小動物かと思ったが、その輪郭は不自然に大きく、歪んでいた。


 俺は剣を握り直す。

 古の英雄がかつて手にした剣が、指先にひりつくように共鳴する。

 三神獣の力が微かに体を流れ、風、炎、水の感覚が同時に鋭くなる。


 影は岩柱の間から蠢き、二つの塊が地面を滑るように迫ってきた。

 ノアが光を放ち、リィナも光の刃で距離を取る。

 俺は赤の炎を剣に纏わせ、影の一つに斬りかかる。


 金の風が剣を押し、青の水が影の動きを鈍らせる。

 一撃で崩れたかに見えた影は、地面に残った黒い霧のような粒子を集めて再び形を取り、二度目の衝撃が迫る。


「気を抜くな!」

 ハルドの声が響く。

 俺は踏み込み、三神獣の力を刃に集中。

 影の動きがわずかに遅れる。リィナがその隙を突き、光の矢を放つ。


 影は崩れ、砂埃に混ざって消えた。

 風が吹き、岩柱の影を揺らす。

 静けさが戻ったが、荒野の風は鋭く、自然の厳しさを思い知らせる。


 ノアが砂を払って、岩の影から顔を出す。

「兄ちゃん、面白いね。次はどこ行くの?」

 リィナも微笑みながら、砂の匂いをかぐ。


 俺は剣を肩に担ぎ、荒野の奥を見据える。

 何も言わず、ただ歩き始める。

 岩柱の間に落ちる長い影が、三人の足取りを追うように揺れた。

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